第248話 疲れたのじゃ

とぷん


 水に飛び込んだかのような音と感触がして、すぐに別の世界に出ていく。目を向ければ、そこはいつも目にしている廃城の部屋の中だった。

「ふむ。理想的じゃの。リリカもよくできるようになったのぅ」

 ゼスは私の頭をぽんぽんとしてくれる。私ももう立派な大人だが、こんな子供みたいな扱われ方をされても、内心は結構嬉しかったりする。


「さて。……つっかれったのー」

 ぱたりとベッドの上に倒れ込むゼス。あれだけ緊張していたのだろうから、疲れて当然か。

「ゼスー、疲れてても、服くらいは脱いで畳んでなさいな。せっかくのドレスが台無しよ」

 私が言葉をかけるが、ゼスは駄々っ子ぶりを発揮する。

「疲れたもんは疲れたんじゃ! 少しは休ませい!」

 手足をバタつかせる姿は、幼女そのものだ。

 そこでピンと来る私。

「ではゼス様、湯浴みのご用意をさせて頂きます。それまでごゆっくりと」

 恭しく礼をすると、それに反応してノってくれるゼス。

「ほほぅ、湯浴みとな? ……では命令じゃ。一緒に入れ」


「え?……」

 あ、これ、拒否権の無いヤツだ。

 まあ、今さら恥ずかしがるような仲でもない。

「では、仰せのままに」

 一緒に湯浴みだ。

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