第239話 魔王さまのおなり

 肩から先を柔軟に使い、手首の返しを素早く行えば、往復して数回の斬りつけなど可能だ。

 ただ、可能とは言え複数回、それも目視がほとんどできないようにするとなると、それ相応の技量も必要になってくる。

 我ながらずいぶんと出来るようになってきた。まあ、まだまだ上には上があるが。


 そんな所でとりとめもない話をゼスとしていると、ざわめいていた会場にひとりの兵士が入ってきた。それを合図に、会場はしんと静まり返った。

 入ってきたワニ顔の兵士は、高らかに宣言する。

「陛下のおなりである!」

 いよいよ魔王さまが来るのか。

 兵士の後ろには、薄いカーテン越しにひとつの席が鎮座している。おそらくそこに座るのだろう。


 その薄いカーテン越しに、誰かが入ってくる影が見えた。あれが魔王さまか。

 その場にいる全員がひざまづき頭を垂れて、敬意を表す。私もゼスもそれに合わせて、頭を下げる。

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