第227話 帰ってみれば

とぷん


 まるで水の中に飛び込んだかのような感触と音がして、続いて埃とカビ臭さが漂う場所に出る。

 初めての影を使っての移動だったが、どうやらうまく行ったようだ。これで私も、吸血鬼の端くれにはなれたかも。


「ただいまー」

 出てきたのは、廃城の中の廊下の片隅。そこから私たちが休んでいる居室まで、数歩という所。本当にこんな移動ができると、かなり便利だ。

「お。おかえりなのだ」

 ベッドでゴロゴロしていたゼスが、起き上がって手を振る。相変わらずマイペースだ。だが、何かに気づいたらしく、私の所に寄ってきた。

「ん? どうしたの?」

 ジーっと私の顔を見るゼス。少し見ていたら、こんな言葉をかけてくる。

「どうしたの、ではない。何かあったのじゃろう。顔に書いてあるぞ」

 どうやら、先程の騎士団に剣を突きつけられた件らしい。そんな事がわかってしまうあたり、ゼスは敏感だ。


「うん、ちょっとね。昔の仲間だった騎士団の人たちから、剣を突きつけられてね。『墜ちた剣聖』なんて呼ばれてるらしい。ははは」

 乾いた笑いを浮かべてその場を取り繕う。するとゼスは、私に抱きついてきた。

「ちょ、どうしたのよ?」

「リリカよ。無理するでない。おぬしの味方はワシがおる。何かあれば話せ。良いな?」

 まったく。優しいなぁ、ゼスは。

 お言葉に甘えて、私もゼスを抱きしめる。

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