第226話 大業物ではないが

「しかし……」

 腰の後ろのショートソードを抜き、改めて眺めてみる。

 品質としてはなかなか良いものだったが、いわゆる大業物おおわざものなどと称されるものと比較すれば、見劣りするショートソードだ。しかし今回振るってみて、バランスと言い切れ味と言い、かなりの上物だという感覚がわかった。

 何しろ本来なら、私に突きつけられたあれらのロングソードを、払い落とすために振るっただけなのだから。振るってみたら、剣が切れてしまったのだから、私も驚いている。


 そそくさとショートソードをしまい、その場を後にする。天下の往来で剣を抜いて眺めていれば、また声をかけられる。それはさすがにマズい。

 ともかく結果としては、良い買い物をしたのだ。そこは自分の見立てが良かったせいもあるだろう。今後はこのショートソードを大切に扱わなければ。


 さて帰りなのだが、私は路地に入って行く。

 地元の人間しか入らないような暗い路地裏に入り、適当な大きさの影を探す。すぐに建物の影が見つかる。

「よっと」

 ちょっと跳躍して、その影に、爪先から水の中に入るように滑り落ちる。行き先は、旧王都の廃城だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る