第219話 お買い物へ

 さて夜が明けて。

 人の時の習慣というのはなかなか抜けないもので、朝に起きて夜に寝るというリズムは、なかなか崩せない所である。

 そんな私だが、今日の所はちょっと違う。

 朱に染めた革鎧を身にまとい、腰の後ろにはショートソードを差し、左手首には小さい円盾バックラーを装備。

 騎士から吸血鬼に身をやつした訳だが、こうして身なりを整えるのは、背筋が伸びる思いがする。やはり私にはコレが似合う。


「リリカー。単にひとりで買い物に行くのに、そこまでの装備が必要かえ?」

 ゼスがベッドに横になりながら問いかけてくる。私は当然とばかりに切り返す。

「当たり前じゃない。ナメられないためにも、一定程度の装備は必要よ」

 ただ、用事は買い物。行くのは少し離れた街道沿いの街。別段荒事をする訳ではなし。単に冒険者に見せかけるための偽装だ。


「じゃ、ちょっと買い物に行ってくるから、留守番をよろしくね」

「ワシは子供かえ? 留守など、せんでも良かろうもん」

 ちょっとしたやり取りだが、私はクスリと笑ってしまった。

「じゃあ行ってきます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る