第213話 シャドウリープ

 店を出て街をそぞろ歩く。

 いつもしていた事なのに、今は少し他人の目が気になる。そんな事をふと思った所で、以前の日常から位相のズレた日常に踏み込んでしまった、そんな感覚を覚えてしまう。ある程度は自分で選んだ道とは言え、少し寂しい所もある。

「さて、帰ろうぞな。我らが居城へ」

 ゼスの呼びかけで気持ちはリセットされ、ゼスの後を追う。いつもなら帰るのは『西棟』だが、今は『旧王都の廃城』だ。そちらに向かう。


「しかし便利な能力よね。『影縫シャドウリープ』って言うんだっけ?」

 私が質問すると、ゼスは事も無げに返答をする。

「まあ、行った事のある場所の影にしか行けない能力じゃが、まあまあ汎用性は高いぞな」

 そう。ちょっと離れた廃城と西区を行き来できるのは、この『影縫シャドウリープ』という能力のおかげなのだ。影のある場所を繋げて、その間を行き来できるという能力。吸血鬼なら使える能力だそうだ。私も練習すれば使えるそうだから、後でやってみるとする。


「吸血鬼になっても、覚える事はたくさんだなぁ」

 私はしみじみ口から漏らす。

 やれる事が増えるのはいい事だ。まだまだ世界は、広くて深い。

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