第209話 血の魅惑
料理屋の中に入ると、相変わらずいかつい男たちが粗雑に食事をしている。食べこぼしも気にせず、なんともお里が知れるという状況だ。そんな中でカウンター席に座ると、その向かいに立っているのは、こちらも相変わらずの無愛想な店主だ。
「久しぶりじゃのぅ、店主。ワシにはいつものをくれりゃ」
「……あいよ」
挨拶も何も無く、厨房の奥へと戻っていく。
しかしこの店に入って気がついたが、以前に来た時のような肉の焼ける香りや香辛料の香りといった、刺激的な香りが感じられなくなっている自分に気がついた。やはり味覚・嗅覚は変わっているのだろう。
厨房の奥からアイスペールに入った瓶を持ってきた店主。それを無造作にゼスの目の前に「どすん」と置いた。瓶の中に入っているのは、豚の血だ。
「さてリリカよ。ちょっとコイツの香りを嗅いでみよ」
ゼスはちょっとイタズラっぽい笑みを浮かべながら、瓶からグラスに移した血を、私の前に出してきた。
いや、そんな生臭いものを嗅いだとて……あれ? 確かに生臭さはあるものの、ちょっと甘やかな芳醇な香りが感じられる。
「え? なんで血からいい香りが?」
ちょっと戸惑いつつも、香りを堪能してしまう。かなり不思議な感じだ。
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