第199話 賭け

「ゼス……」

 私はその感触をしっかり確かめるように、肩をがっしりと抱きしめた。ああ、あの時の柔らかさと香りだ。間違いない。目の前にいるのは、ゼスだ。しっかりと実感を伴って心に響いてくる。

「おお、よしよし。つらい思いをさせたのぅ。もうそんな思いはせんで大丈夫じゃから、安心せよ」

 ゼスの柔らかく優しい声音が、私を包んでくれた。包容力とはこの事だ。



――――――



 しばらく泣いて落ち着いた所で、私はゼスに尋ねる。

「そう言えば、なぜ聖剣で首を落とされたのに、復活できたの?」

 私の問いに、ゼスは思ってもいない角度からの答えを出してきた。

「そりゃ当たり前じゃ。吸血鬼を封印するには、その『真名しんめい』を看破して封印せねばならぬからな」


 え? つまり、今まで名乗っていた名前は、本当の名前ではなかったという事か。どこまで用意周到なのか。

「そこまで折り込み済みで……?」

「ま、半分賭けじゃったがの」

 なんともしたたかである。

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