第187話 訪問者

 騎士として、いずれは“人を斬る”という経験はするだろうとは思っていたが、まさか、様々な事を教えられ食事を共にするなど情を交わした仲の相手を斬る事になるとは、夢にも思っていなかった。私はそういう意味では、覚悟が足りなかったのだろう。


 東の空が白んできても一睡もできず、やはり目の前のコップに入った水すら飲めずにいる。思った以上にこたえているのだ。様々な騎士たちが様々な理由で辞めて行くのは、今も昔もかわらないが、こういった精神的な理由もあっただろう事が、容易に推測できた。


 私ですら、このていたらくなのだから。


 ただただ時間だけが過ぎて行く中、少しの変化が起こる。


コンコンコン


 入口扉をノックする音が聞こえたかと思うと、その扉を開けて入ってくる人物がいた。騎士団長だ。

「すまんな、邪魔をする。……ひどい顔だ。大丈夫か?」

 そんな私を心配してか、私の様子を見に来たようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る