第186話 空白

 そして到着したのは、『西棟』。

 そこに連れてこられ、おそらく女性職員だったのだろう、湯浴みをさせられ、身体を整えられた。ゼスの首は、見届け役の騎士たちがどこかに持って行ったようだった。


 とりあえず着替えまでさせられひとりになった所で、私は『西棟』で夜を過ごした。

 外からは街の喧騒も聞こえ、人々のにぎわいも聞こえてくる。何かが割れる音がしたと思ったら、何やら喧嘩らしい言い合いの声も聞こえてくる。


 しかし、『西棟』の中では、音を立てるモノなど存在しない。私まで身じろぎもしないから、衣擦れの音すら存在しない。


 イスに座り前のテーブルには水の入ったコップが置かれ、とりあえず飲めと言われているようだった。その水すら飲む気力が沸かなかった。


「ゼス……」

 ポツリとつぶやく。

 しかし応えてくれる人はいない。

 私ひとり、じっと手のひらを見る。

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