第183話 勝負あり。だが……
私は、肩口の所を狙って軽く斬りつける。それをゼスは拳で剣の横腹を叩き、軌道をそらそうとする。
しかし足の踏ん張りが利かない手打ちでは、剣の軌道はそこまで変わらない。ゼスの胸板を浅く斬る。
その途端に、ゼスはその場にしゃがみ込んでしまう。バランスを崩してしまっているのだ。これでは戦闘にはならない。
「ふ、ふふ。いやあ、やはり強いのぅ。さすがワシの見込んだ騎士どのじゃ」
もう戦いは終わった。誰が見ても、勝負はついている。しかし、私はわかっている。最後の一手が必要である事を。
「リリカよ。ワシの首を取れ。それで仕舞じゃ」
ゼスの優しい声音が響く。
なぜ、良き隣人であるゼスを、ここで殺さねばならないのだろうか。なぜ、最後のとどめを刺さねばならないのか。
私は悲しくて悔しくて、涙を流し鼻水を流し、顔面をぐちゃぐちゃにしていた。
「情けない顔をするでない。ほれ、早く首を取らんか」
そう言って、ゼスは自分の首を手刀でトントンと叩く。
ああ。なんと現実は残酷なのだろう。私はこの時ばかりは、この世のすべてを恨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます