第183話 勝負あり。だが……

 私は、肩口の所を狙って軽く斬りつける。それをゼスは拳で剣の横腹を叩き、軌道をそらそうとする。

 しかし足の踏ん張りが利かない手打ちでは、剣の軌道はそこまで変わらない。ゼスの胸板を浅く斬る。

 その途端に、ゼスはその場にしゃがみ込んでしまう。バランスを崩してしまっているのだ。これでは戦闘にはならない。


「ふ、ふふ。いやあ、やはり強いのぅ。さすがワシの見込んだ騎士どのじゃ」


 もう戦いは終わった。誰が見ても、勝負はついている。しかし、私はわかっている。最後の一手が必要である事を。


「リリカよ。ワシの首を取れ。それで仕舞じゃ」

 ゼスの優しい声音が響く。

 なぜ、良き隣人であるゼスを、ここで殺さねばならないのだろうか。なぜ、最後のとどめを刺さねばならないのか。

 私は悲しくて悔しくて、涙を流し鼻水を流し、顔面をぐちゃぐちゃにしていた。


「情けない顔をするでない。ほれ、早く首を取らんか」

 そう言って、ゼスは自分の首を手刀でトントンと叩く。

 ああ。なんと現実は残酷なのだろう。私はこの時ばかりは、この世のすべてを恨んだ。

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