第178話 上体が消えた理由

 そう覚悟をしたのもつかの間、今度はゼスが仕掛けてくる。

 なんと構えをとき、無造作に私の方にズカズカと歩いてくるではないか。これには驚いた。一瞬身体と意識が固まる。

(何か狙いが? いや、何があろうと、間合いに入れば突きを放つだけだ!)

と頭の中を切り替え、突きに集中する。


 そして一足一刀の間合いにゼスが入った直後、私は一歩踏み込んで突きを喉に向かって放つ。

 しかしそこにゼスの身体は――――ない。

 いや、身体が無くなったのではない。私の突きに反応して、上体を斜め前に倒し、地に伏せる形になっていたのだ。これがゼスの身体が消えたと思った正体か。


 その上体の倒しの勢いを使って、右の回し蹴りを私の腹に向かって放つ。私はとっさの防御で、左肘を突き出してゼスの右足と正面衝突させる。


ガイィン!


 にぶい音と共に、お互いの間合いが離れる。

「やはりお互い、同じ手は二度と食わんか。やれやれ」

 ゼスは疲弊しつつも、どこか楽しそうだ。

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