第176話 こめかみに

 私は、頭の上に剣をかかげ、上段の構えを取る。腹を空かせてそこに誘い込み、入ってきた所を一刀両断するつもりだ。


「ふふ、ふふふ。あの時と同じかえ? 腹を殴って来いとな? 仕方あるまい。乗ってやろうっ!」

 すぐさまゼスが正面に突っ込んでくる。低い姿勢でボディフックを打つつもりだ。

 ――――あの時と同じ――――


 私は聖剣を信じ、唐竹に振り下ろす。そこにゼスの身体は――――


ない


 踏み込んだ右足を軸にさらに一回転して横にそれ、私の剣は空を斬る。

 そしてゼスは、左足を外に踏み込んで右のフックを私の頭に放つ。しかしゼスの体制も悪い。右のフックは、私のこめかみ辺りをかすって、宙を泳ぐ。


「ぐっ!」

 私はうめき声を上げる。かすったとは言え、吸血鬼の怪力がこもったパンチだ。威力は脳を揺らし、私はたたらを踏んでしまった。

 ようやく体制を立て直したゼスは、追撃の左フックを放つも、その時には私も体制を立て直し、飛び下がって間合いを切った。

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