第172話 初手の一突き

 ゼスは玉座から降り、私の前、剣の間合いの手前まで進んでくる。私は無造作に歩いてくるゼスに警戒し、右に回り込む。

 そのままゼスと私は、半時計回りでぐるっと一周し、立ち位置を決める。そこで私はようやく抜刀し、正眼の構えになる。

 息を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き切る。大丈夫。落ち着いている。ゼスを前にしても、いつも通りだ。


 これまでゼスから教わってきた様々な事、それを披露するのだ。ゼスに満足してもらうためには、私が全力でもってあたらなければならない。


 ゆっくり呼吸をし、自らの内側を『虚』にする。何も考えず何も予測せず、あるがままを受け入れる。その体制を整えた。


 ゼスの表情から余裕が消えたのは、その時だった。私を本当にタイマンを張れる相手として、しっかりと認識したのだ。


 そのまま一歩踏み出し、ゼスの喉元に向けて切っ先を突き入れる。我ながら、無駄のない理想的な突きだ。

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