第166話 慟哭

 そのままカフェを出て、帰る所はやはり『西棟』だ。ゼスとふたりで暮らした、短くも濃い時間を過ごした場所だ。


 私は、ゼスが寝ていたベッドの方に、自分の身体を寝かせる。

 ほんのわずかだが、ゼスの香りがする。ちょっと甘めなベビーフードのような香りだ。すでに体温は飛んでしまっているが、それでもなんとなく、ゼスの温もりみたいなものも感じられるような、そんな気がした。


 掛け布団をつかむ。

 鼻先によせる。

 確かにゼスという存在はここにいた。


 不意に涙がこぼれてきた。

 心の奥底に横たわっていた、さまざまな感情が一気に吹き出してきた。

 私は泣いた。声を上げ、鼻をすすり、枕を涙で濡らした。感情のおもむくまま、私はゼスのベッドの上で、慟哭した。


 なぜゼスを斬らなければならないのか。なぜ良き隣人であろうとした存在を殺さなければならないのか。疑問と怒りと恨みで、私は一晩中泣き続けたのだ。

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