第165話 冷めたパンケーキ
「むほほ。これは
そうゼスは言って、ナイフとフォークで大ぶりに切り分け、パンケーキを頬張った。美味しいものを食べるゼスの表情は、とてもうれしそうで晴やかでもあった。
そんな私はと言うと、手がカトラリーを持つのを拒否していた。どんな表情をしていたのかは自分ではわからないが、とても一言では言い表せない表情だったと思う。
私が指一本も動かせぬまま、ゼスは食事を終えた。
「リリカよ。腹をくくれ。時が来るまで、待っていようぞ」
そうゼスは言って、席を立った。
私の分のお会計もしてくれ、私はその背中を見送るしかできなかった。席を立つ事すらできなかったのだ。
あのゼスを斬れと? 人間たちの良き隣人であろうとし続けた、あの優しい吸血鬼を斬れと?
結局、パンケーキは一切れも食べられず、冷めて下げられてしまった。
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