第162話 時間を下さい

「ちょ、ちょっと待って下さい! ゼスはこの国の人を襲う事はありません。むしろ好意的です。それに、騎士団の指南役も務めて、みんなの実力の底上げにも貢献してくれています。その功労者を『斬れ』と?」

 私の至極真っ当な反論に、苦虫を噛み潰したような顔で、団長は答えた。

「これは『王命』なのだ……。拒否権は、無いと思ってくれ。私だって、恩のある者を斬るなど、したくはない……」


 やはり『王命』か。

 王は、この国の利益を守るために動いてくれている。この治世は後世に、「賢王だった」と称賛されるであろうほどに、良く治められている。その賢明な王が、そう決断したのだ。従うより他に無い。

 しかし、私にゼスが斬れるのか? あれほど交流をして情を交わした、あの存在を。


「……。少し、時間を下さい……」

 私が搾り出した答えは、それだけだった。

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