第13話『思い出ヒーローショー』

 波打つ人混みを超えて、俺と彩芽はヒーローショーが行われるステージへとやって来た。無数の観客が席にひしめき合っており、俺達は最高峰から立ち見での見物となっていた。


「もう始まるッスよ先輩!」

「ギリギリセーフだな!」


 ステージ上では既にショーが始まっており、ライトに照らされた怪人が何やら演説をしている。

 たかがヒーローショーと侮っていたが、怪人役の演技は素晴らしいものだった。仰々しく手を振って大きく見せたり、細かい部分で動きに緩急を付けることでキレのあるアクションを魅せている。

 あれは多分相当ベテランのスーツアクターがやっているんだろうな。


『そこまでだ!』

「この声は!!」

「来たッス!!」


 聞き馴染みのある声が聞こえた瞬間、ステージが激しいライトで輝き出す。舞台袖からBGMと共に、我らがヒーロー〈デルタマン〉が飛び出してきた。


『真っ赤な3角は勇気の証!みんなの味方デルタマンただいま参上!』


 名乗りと共にOPが流れ始め、会場のテンションは最高潮に登る。テレビで見る姿と違い、CGなどによる派手なエフェクトは無い。だがその身一つでダイナミックなアクションを披露する姿は、間違いなく俺の大好きなデルタマンだ。


「うおおおおお!頑張れー!!」

「ファイトッスー!!」


 周りの子供に負けない程に俺と彩芽も盛り上がっていた。だが盛り上がりとは裏腹にステージ上の戦いはデルタマンが劣勢を強いられていた。


『このままじゃデルタマンが負けちゃう!みんな応援してあげて!』

「「「頑張れー!デルタマーン!」」」


 視界のお姉さんの呼びかけに答え、会場中がデルタマンに熱いエールを送る。声援を一身に受けたデルタマンが右手の拳を構えた。


「来るぞ!」

『〈デルタ・マグナム〉!!』


 ド派手な効果音と光の点滅に演出された必殺技によって、デルタマンが勝利する。怪人は舞台袖へと吹き飛んでいき、壇上には凱旋するヒーローだけが残った。


『会場のみんな!応援ありがとう!』


 デルタマンが手を振り、舞台裏へと去っていく。

 会場中から自然と拍手が起こった。俺も知らぬ間に拍手をしていた。あらゆる部分で想像よりも良いものを見せてもらった…




「最っっっっ高だった…!」


 ショーが終わった後、俺達は売店外でアイスを食べながら談笑していた。

 ショーの後にはデルタマンとの記念撮影会も行われており、俺も無事写真を撮ってもらった。プリントされた写真にはお揃いのポーズを決める俺と彩芽とデルタマンが写っている。


「想像以上だったッスね!正直ヒーローショーのこと舐めてたッス…」


 彩芽の感想に俺もウンウンと頷く。たかがヒーローショーと侮っていたが、演出も迫力も凄まじいものだった。映像というフィルターを通さない迫力は是非味わって欲しいものだ。


「エフェクトとか無しでもあんなにカッコよくできるもんなんスね!」

「動きとか効果音の使い方が上手いんだろうな。ピンチの時とか本気で心配しちゃったよ俺」

「あーそれめっちゃ分かるッス!マジでヤバいんじゃ?って思っちゃいますよね!」


 すっかりデルタマンに夢中になった俺達の手には、ここでしか買えない限定グッズがちゃんと握られていた。本当に商売が上手いな、あんなの見せられたら買わないわけにはいかないじゃん。


「さてと…まだ閉園まで時間あるぜ。何か乗りたいアトラクションとかあるか?」

「そうッスね…もうあんまり無いッス…」


 そこまで広くない遊園地というのもあって、目玉になっているアトラクションは既に堪能し終えている。


「…あ、じゃあ先輩、最後に乗りませんか?」

「アレ?…あぁそういう事ね」


 彩芽が指差したのは観覧車。

 遊園地の締めと言えば観覧車だろう。もちろん俺が断る理由は無い。

 俺達はゆったりと回る観覧車に乗り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る