第12話『ナンパ撃退』

「あー…まだ目が回るッス…」


 コーヒーカップから降りて休む彩芽。だらしなくベンチに五体を投げ出し、今にも吐きそうな顔で天を見上げている。流石にテンションを上げすぎてしまった、俺としても少し反省しなくては。

 俺はぐったりした彩芽の為に、近くの自販機でジュースを買おうとした。少しでも酔いが軽くなればいいなと考えながら、無難にスポーツドリンクを買う。


「彩芽ー、テキトーに飲み物買ってき……!?」

「お嬢ちゃん1人?良かったらオレらと遊ぼうぜ」

「ってかめっちゃ気分悪そうじゃん。大丈夫?オレら休憩に良い場所知ってから行こうぜ」


 戻ってきた俺の目に飛び込んできたのは、見知らぬ男2人に声をかけられている彩芽だった。

 いかにも軽薄そうな男2人組に両サイドを固められ、彩芽は困惑した顔をしていた。


「ふぇ…誰ですか…?」

「ふぇだってwカワイーじゃんw」

「あ、あの私…知り合いと来てるので…」

「良いって良いって!その知り合いの子も一緒に来ればいいじゃん!」


 どう見てもナンパ、しかも相当しつこいタイプだ。

 初めは彩芽の知り合いかもと思い距離を置いて観察していたが、反応的に知り合いでは無いのは確かだ。


「…あの」

「あん?何だよお前」

「ソイツの連れだ。ナンパなら他を当たってくれ」

「うわーもしかしてこの子の彼氏?」

「それは…」


 違うと言いかけて言葉を飲み込む。ここで否定するのは簡単だ。でもそれだとコイツらは彩芽にまた言い寄り始めるかもしれない。

 ここは1つ、嘘も方便だと考えることにした。


「そうだ、俺がコイツの彼氏だ」

「っ!?」


 俺の発言に彩芽が1番驚く。声を出さなかったのは、衝撃を受けながらも辛うじて俺の意図を汲み取れたからだろう。


「何だよ彼氏持ちかよ!」

「ハズレだな。次行こーぜ」


 男達は萎えた様子で離れていった。

 まさか彩芽がナンパされるとは…まぁ見た目は可愛いし惚れるのも分かる。


「…行ったか。ったく、面倒な奴らだぜ…」

「せ、先輩!今のって…!」

「ん?あぁ、ナンパを追い払う為の言い訳さ」

「そうッスよね!知ってましたとも!えぇ!!」

「大丈夫か?顔が真っ赤だが…」

「大丈夫ッス!!」


 食い気味に否定してくる彩芽。なんだか顔も赤いし、体調も優れていないのかもしれない。

 買ってきたスポーツドリンクを差し出すと、彩芽は一気に飲み干してしまった。


「……ぷはっ!あー美味しい!先輩もどうッスか!」

「俺は自分の分があるし平気だ」

「あ、そうッスか…」


 今度は急に落ち込んだな…相変わらず何を考えてるのか掴みにくい奴だな…

 何はともあれ、彩芽に絡んできた奴は撃退した。これで再び2人だけで遊べる。


「…もう平気ッス…ご心配をかけました」

「じゃあ次のアトラクション行こうぜ」

「先輩、そろそろ時間ッスよ!」

「ん?何が?」

「何ってデルタマンのショーッスよ!あと30分で始まるッス!」

「おぉ!もうそんな時間か!すっかり忘れてたぜ!」


 時計を確認してみると、針は2時半を少し超えた所を指していた。今からステージに向かえばちょうど良いタイミングで到着するだろう。


「忘れないでくださいッスよ!」

「ごめんごめん、あんまりにも楽しくって忘れてたぜ!」

「それって…遊園地がッスか?」

「それもそうだしお前と遊ぶのもな!」

「っ!……ホントずるいッス……」

「何か言ったか?」

「なんでもないッス!それより早く行きましょ!」


 急に元気になった彩芽と共に、俺はショーが行われる園内ステージへと走った。

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