第11話『全・力・全・開ッス!!』
遊園地の花形、ジェットコースター。
遊びに来れば大抵の人が楽しむアトラクションに、俺と彩芽も乗ろうとしていた。
しかし、楽しもうというのはみんな同じ考えだ。それを証明するように、俺達の前には『30分待ち』と書かれたプラカードと、果ての見えない長蛇の列が形成されていた。
「…長ぇな」
「…長いッスね」
他のアトラクションに移動することも考えたが、どこも同じようなものだと考えて並ぶことにした。
「暇ッスねぇ…先輩しりとりしましょ!」
「ガチで何もやる事ない時にやるやつじゃん」
「いーじゃないッスか!しりとりのりから!はい!」
「リンドブルム」
「いきなり飛ばし過ぎッス!?」
彩芽としりとりをして待ち時間を潰し、何とか順番が回ってくるまで粘った。
そしてようやく、次が俺達の番だ。
「近くで見ると高ぇな…」
「アレアレ〜?先輩もしかしてビビってますぅ〜?」
「実は持病があってな…俺は乗れないけど1人で楽しんで来いよ!」
「えぇ!?ここまで来て!?嘘ッスよね!?」
「あぁ嘘だ」
「もー!もーっ!!」
「あっはっはっ!俺をからかおうなんざ100年早ぇんだよ!」
係員に案内され、俺達はジェットコースターに乗り込む。進み始めたカートがゆっくりと坂を登っていく。いよいよ始まるのかと恐怖と興奮が入り交じる。
その時、俺の手が隣の彩芽の手に触れた。
「せ、先輩…ビビってんじゃないッスか!?」
「そ、そういうお前こそ声が震えてるぜ!?」
「これは…寒いだけッス!」
カートが頂上に到達する。およそ50メートルの天空から見下ろす園内は素晴らしい光景をしていた。
だが蒼穹に思いを馳せたのも束の間、天国の景色から一変して地獄の加速が乗客に襲い掛かる。
「「ぎゃあああああああああああああ!!」」
一気にカートが下り坂を降りていく。時速は優に100キロを超え、体を抑える安全バーが無ければ悲惨なことになっていただろう。
「うわああああ!!飛ぶ飛ぶ飛ぶ!!!」
「落ちる落ちる落ちる!いやあああああああ!!!」
まぁ安全バーがあってもこのザマなんですけどね。
「これ回るヤツか!?回るのか!?イッツァローリングワールド!?」
「ああああああ乗るんじゃ無かったッスゥゥゥ!!」
レールが一回転し、天地が完全に回転する。普通に生活していたら絶対に免疫の付かない回転に襲われる。当然、俺も彩芽も半泣きで絶叫していた。
わずか数分でカートはレール上を駆け終えた。スタート地点に戻ってきた俺達は、係員に支えられながら何とか地上への帰還を果たした。
「あー…想像以上だった…」
「楽しかったッスけど…二度と乗りたくない…」
ふらつく足取りで何とか歩く俺と彩芽。その手は無意識のうちにガッチリと繋いでいた。
恋人繋ぎになっている事に気付いたのは、ジェットコースターを降りてから10分後のことだった。
∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵
「先輩!次アレに乗りましょ!」
「アレは…コーヒーカップか」
次に彩芽が選んだのは、コーヒーカップのアトラクション。今度は待ち時間も無く、すぐに遊ぶことが出来た。早速1つのカップに向かい合うように座る。
「選ばせてやろう!全力で回すか、それとも程々に楽しむか!」
「フッフッフ…私は凌我先輩の後輩ッスよ!そんなの全力一択に決まってるでしょう!」
「よく言った!行くぞ彩芽!」
「はいッス!」
BGMと共にカップが回り始める。普通なら優雅に回って楽しむのだが──
「うおおおおお!フルパワーだ!!」
「全・力・全・開ッス!!」
──完全に方向性を間違えて全力で回す俺達。
一瞬で速度MAXに到達し、両手でバンザイしても有り得ない速度でカップが回った。
「「あははははっ!」」
あまりの速さに爆笑する俺と彩芽。視界の端に見える他のカップは、俺達の半分程度の速さしか出ていない。この場の最速は俺達が貰った!
…5分後、カップから降りた俺と彩芽は同じ青い顔をしていた。
「酔ったッス…うっぷ…」
「ま、回し過ぎだ…オエェ…」
回転により三半規管を破壊された
結局、俺達は酔いが覚めるまでしばらくベンチでダウンすることになった…
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