第6話『もしかして意識してるのか…?』

「ただいまー」


 彩芽との放課後デートを終えた俺は、1人自宅へと帰ってきた。

 彩芽がUFOキャッチャー得た景品は好きにしていいとの事だったので、俺はひとまず手に入れた景品の仕分けを始めた。


「さてと…〈デルタマン〉どこに飾るかな…」

「あ、おかえり凌我…ってどうしたのその荷物?」

「ただいま姉貴。ちょっとした戦果、かな?」


 俺を出迎えたのは2つ歳上姉──河郷かごう 好葉このはだ。姉貴はTシャツに短パンで、片手に棒アイスを持っていた。


「これUFOキャッチャーの景品でしょ?あんたゲーセンとか行くんだ」

「今日は特別だ、普段は行かねぇよ」

「特別ねぇ…1人?」

「いや2人。後輩と行ってきた」

「それって女子?」

「あぁ」

「ふぅーん!そっかそっか!デートだったか!」


 そう言って姉貴は俺の背中をバシバシと叩いてきた。自分にそういう浮ついた話が無いからってこっちを茶化すなよな…


「それで?何取ってきたのさ。お姉ちゃんに見せなさいよ」

「そんな面白いもんは無ぇぞ」


 実際、ほとんどは彩芽が調子に乗って取った意味不明な物ばかりだ。

 姉貴は乱雑に景品の入った袋を物色し、中の物を勝手に吟味し始めた。


「〈サメロン〉のぬいぐるみじゃん。これ貰っていい?」

「良いよ。俺には何のキャラなのか分からんし」

「こっちは…お菓子の詰め合わせか。これは台所に置いとくわ」

「そうしてくれ」

「それからこれは…おっ〈デルタマン〉じゃん!これ頂戴!」

「それはダメだ!」


 姉貴が取り出した〈デルタマン〉のフィギュアを慌てて奪い取る。

 他の物はどうなっても構わないが、これだけは姉貴には渡せない。これは俺の為に彩芽が取ってくれたものだから。


「これだけはダメだ」

「ちぇっ!せっかく〈デルタマン〉のグッズが手に入ると思ったのに…まぁいいや、あたしは今度自分で取ってこよーっと」


 姉貴は袋から取り出したいくつかのぬいぐるみを持って自室へと戻った。

 俺も荷物を片付けるべく、自分の部屋に入る。

 俺の部屋にはベッドと勉強机、そして趣味のフィギュアや漫画が入った棚がある。


「とりあえずここに…よしっ!」


 彩芽から貰った〈デルタマン〉のフィギュアを1番目立つ棚の頂上に配置する。

 UFOキャッチャーの景品というだけあって、出来映えば他のフィギュアのが良い。だがそれ以上の価値が、このフィギュアにはある。


「さてと、残りは…ん?」


 俺のスマホに通話がかかってきた。

 電話の相手は彩芽だ。


「もしもし?」

『どうも先輩!もう家ッスか?』

「あぁ、急にどうした?」

『特に理由は無いッス!ただ電話したくなったからかけました!』

「お前も大概暇人だな」


 俺が風呂とか入ってたらどうするつもりだったんだ。


『今日は楽しかったッス!また行きましょうね!』

「おう、そうだな」

『ところで先輩…例のフィギュア、どこ飾ったッスか?』

「1番目立つ所に飾ったよ。お前からのプレゼントだしな」

『ほんとッスか!?やった!彩芽ちゃん大勝利!』

「何に勝ったんだよ」


 電話越しに彩芽が喜んでいるのがよく分かる。

 音が遠くなったり近くなったりしている辺り、多分踊ってるんだろうか。


「ってか本当に俺と話したいってだけで電話してきたのか?」

『もちろんッス!』

「っ……悪い、そろそろ飯だわ。電話切るぞ」

『はーい!先輩、おやすみなさい』


 彩芽との通話を終え、俺はベッドに座り込んだ。

 頭の中では彩芽の言葉が何度も繰り返されていた。


「俺と話したくて電話した…か…」


 瞬間、顔が熱くなるのがわかった。

 熱が額に集まり、俺の思考回路を乱す。目を閉じて落ち着こうとしても、浮かんでくるのは彩芽の笑顔だった。


「アイツはただの生意気な後輩…だよな?」


 虚空に向かって問いかける。

 その答えを知るものは、ここにはいなかった。

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