第5話『彩芽の好きな物って?』
彩芽と一通りショッピングモールを楽しんだ後、俺達は両手いっぱいの荷物を抱えて帰路についた。
「いやー…お前頑張りすぎだろ…」
「あはは…さすがにちょっとやりすぎたッス…」
彩芽に〈デルタマン〉のフィギュアを取ってもらった後、俺達は手当り次第にUFOキャッチャーに挑戦した。俺は全然だったのだが、彩芽は次々に景品を手に入れた。その結果が袋4つ分の荷物というわけだ。
「もうちょい手加減してやれよ。途中から店の人涙目でお前のこと見てたぞ?」
「私だってあんなに取れるとは思わなかったッスよ!今日は自分でもドン引くくらい絶好調だったんス!」
それにしたって取りすぎだろう。後半の方なんか取る物無くなってペンギンと蛇を足したような変なヌイグルミまで取ってたんだし、底なしのポテンシャルが垣間見えたわ。
「でも本当に良いのか?これ全部俺が貰っても」
「良いッスよ。あんまり物に執着とか無いんスよね…家に置いても邪魔に感じちゃいますし」
その時の彩芽の横顔が、俺の目に妙に焼き付いた。
何か嫌な思い出を飲み込もうとして、少し溢れてしまったような表情だ。
「…分かった、なら俺が持って帰るよ」
「助かるッス!」
俺が持ち帰ると言うと、もう彩芽の表情はいつもの明るいものに戻っていた。
俺はコイツを知っているようで知らない。何が好きで、どんなことに興味があって、何が嫌いなのか。
隣に居るはずなのに、俺には彩芽の姿がぼんやりとシルエットのように見えた。
「なぁ彩芽…お前の好きな物ってなんだ?」
「なんスか急に」
「いや、改めてお前のことを何も知らないなって思ってな」
「ええーっ!こんなに先輩に絡んでるのに全然知られて無かったッスか!?ちょっと凹むッス…」
彩芽が分かりやすく方を落としている。
仕方ないだろう、知らんもんは知らんのだから。
「私の好きな物ッスよね?うーん…あっクレープとか好きッスよ!」
「クレープか…趣味とかは?」
「特にないッス。強いて言うなら先輩と遊ぶこと!」
「それ趣味って言うのか?」
「立派な趣味ッスよ!凌我先輩と遊んで、先輩とお話して、先輩と一緒に帰る!私の楽しみッスから!」
どうやら彩芽の中で俺は相当大きな存在らしい。自分では自覚していなかったが、随分と彩芽と一緒にいる時間が長くなっていたようだ。
「そんなに俺と一緒が良いのか?」
「はいッス!!」
この日1番の笑顔で彩芽が答えた。
気持ちの良い笑顔を見て、俺は思わず彩芽の頭を撫でた。
「あっ、これ…」
「撫でられるの嫌だったか?」
「違うッス…その…逆です…私、これ好きッス…」
恥ずかしそうにしながら、それでもハッキリと彩芽は好きだと答えた。
撫でられるのが好きなのか。ならこれからはもっと積極的に撫でてみようかな。
そう思いながら手を離そうとすると、彩芽が俺の手を掴んできた。
「彩芽?」
「…まだ…止めないで欲しいッス…」
「お、おう…」
彩芽に止められ、再度頭を撫でる。
結局日が落ち切るまで、俺はずっと彩芽の頭を撫で続けた…
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