第4話『後輩と放課後デート』

 彩芽と一緒にやって来たのは、高校近くのショッピングモール。

 ここはウチの学生がよく利用する場所であり、娯楽用品から生活必需品まで幅広くカバーしている。


「それで先輩、今日は何しに来たッスか?」

「とりあえず服でも見ようかなってな」

「先輩が…オシャレするッスか…!?」

「俺じゃねぇよお前のだ」


 俺がオシャレしてどうすんだよ…

 服を見ると言ったのは彩芽の好みを把握したかったからだ。普段制服姿なコイツも、私服姿だと何か印象が変わるかもしれない。

 ──って本に書いってあった。


「私ッスか?うーん…私も別に服は困ってないんスよねぇ…」

「そうか?なら別の所に──」

「じゃあ私が先輩の服を選ぶッス!」

「俺の!?」

「はいッス!私が先輩のダッサイ私服センスをどうにか矯正してあげるッス!」


 なんで俺がとも思ったが、彩芽の好みを知るという点ではアリかもしれない。

 ダサいと言われるのは心外だが、俺自身ファッションセンスは壊滅的だ。いっそ彩芽に選んで貰った方が綺麗にまとまるだろう。

 俺達はモール内にある1番安く服を売っている店に入った。他にも店はあるが、ここ以外の所は学生が手を出すには少し割高すぎる。


「まずは先輩の希望を聞くッス!好きな色は?」

「うーん…赤と黒…かな?」

「厨二カラー…じゃなくて素敵な色ッスよね!」

「全部聞こえてるからな!」

「ジョーダンッスよジョーダン!それじゃあ…コレとかどうッスか!」


 彩芽が選んだのは黒をベースに袖や襟元に赤いワンポイントが入ったスカジャンだった。

 何より良いのが背中に入ったドラゴンの刺繍。一目で分かるカッコ良さがある。

 色合いはちゃんと俺好みだし、値段も安価。一瞬で見つけたにしては需要にピッタリとハマっていた。


「良いじゃんか。これ買うか」

「えっ…マジッスか先輩…?」

「あぁ。何か問題でもあったか?」

「い、いやぁ…先輩が良いなら良いッスけど…高校生が好んできるようなのじゃない気が…」

「そうか?普通にカッコイイだろ」

「…先輩、私が悪かったんでちゃんと服選びましょ。私服でスカジャンはやめましょう…」

「???」


 彩芽が凄く申し訳なさそうにしながら服を選び直した。なんでだ?俺は別にコレでいいのに。

 次に彩芽が選んで来たのは普通の黒いジャケット。さっきの比べたら派手さは劣るが、今度は堅実なカッコ良さがあった。


「こっちの方が良いッスよ先輩!カッコイイ!よっ!水も滴るいい男!」

「そこまで言われるとちょい照れるな…」


 彩芽に背中を押されてジャケットを購入する。

 自分の服を買ったタイミングで、俺は本来の目的を思い出した。

 そもそも今日は彩芽の好みを探る為に来たはず。それなのに俺の服を買っただけで満足してしまった。


「先輩!次はゲーセン行きませんか!私、先輩と遊びたいッス!」

「……ま、いっか」

「何がッスか?」

「こっちの話だよ。それよりゲーセン行くんだろ?」

「はいッス!」


 彩芽の方から遊びを選んでくれるならそれでいい。

 俺達が次にやって来たのがゲームセンター。店内にはUFOキャッチャーの筐体が立ち並んでいた。


「あっ、先輩先輩!アレ先輩の好きなヤツじゃないッスか?」

「おぉ!〈デルタマン〉のフィギュアじゃねぇか!もう出てたのか!」


〈デルタマン〉とは毎週日曜朝9時から放送している特撮番組だ。

 ヒーロー番組としてだけでなく恋愛ドラマとしても作り込まれている、ちょっと奇抜な作品だ。

 その〈デルタマン〉の最新フィギュアが今、UFOキャッチャーの景品として入っている。


「でも俺UFOキャッチャー苦手なんだよな…まぁ1回やってみるか!」

「先輩ファイトッス!」

「おう!」


 筐体に100円を入れ、アームを動かす。

 このUFOキャッチャーは2本の棒が敷かれており、その上に景品の箱が乗っている。箱を動かして棒の隙間から下に落とせば景品ゲットだ。


「ここだ!」


 タイミングを見計らってボタンを離し、アームを狙った場所に下ろす。

 しかしアームは箱を少し持ち上げるだけで、景品ゲットには至らなかった。


「あーっ!…やっぱダメか…」

「諦めるのは早いッス!ここは私にお任せを!」


 今度は彩芽が100円を入れる。集中した眼差しでアームを動かし、箱の縁スレスレの場所に下ろした。


「これじゃあ箱を持ち上げられないんじゃ…」

「持ち上げなくて良いんスよ。こういうのは箱の向きを少し変えてあげれば…」


 アームが箱を弾き、箱の向きが変わる。

 隙間にすっぽりと入るように調整された箱がアッサリと落ちた。彩芽は一発で狙った景品を手に入れた。


「いっちょ上がりッス!」

「スゲェな彩芽!」

「えへへ…どうッスか先輩!私の腕は!」

「素直に尊敬するぜ。彩芽は器用だな!」

「そうやって褒められると気持ちいいッスねぇ〜♪じゃあ気分もいいんで…コレあげるッス」

「えっ?」


 彩芽が満面の笑みで手に入れたフィギュアを差し出してきた。


「良いのか?」

「良いも何も先輩が欲しがってたから取ったんスから、ありがたく受け取って欲しいッス」

「お前がそう言うなら…ありがとな!」


 彩芽からフィギュアを受け取り、労いの気持ちを込めて彼女の頭を撫でた。

 撫でられた彩芽は犬のように目を細めて笑った。

 彩芽の好みはよく分からなかったが、褒められると喜ぶことだけが分かった。

 今日はそれだけでいいかも。プレゼントされたフィギュアと彩芽の笑顔を見て、俺はそう思った。

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