第3話『お前が居ればそれで良い』
「ふぁ…寝みぃ…」
翌朝、登校してきた俺は教室で欠伸をしながら本を開いていた。
読んでいるのはもちろん〈歳下との上手い付き合い方〉だ。
(タメにはなるんだけどクソつまんねぇんだよな…)
普段は漫画を多少読むだけな俺が啓発本に手を出すなんて、自分でもどうかしてるとも思う。
ただ昨日の
「彩芽に反撃できるなら…まぁ必要経費か」
「何読んでんスか?」
「うわっ!!」
顔を上げると、彩芽が覗き込んで来ていた。
丸い両目が不思議そうに俺を見ている。
「ビックリした…急に出てくんなよ」
「だって先輩のことずっと呼んでたのに全然気付いてくれないんスもん!」
「呼んでた?マジ?」
「マジッス!……心の中でッスけど」
「そこは発音しろや!」
「あいたっ!」
お前はテレパシーでも使えるのか、と彩芽の頭にチョップをかます。
「酷いッスよ先輩!こーんなかわっ…スマンセン、今のナシで…」
「ん?こんな可愛い後輩ってか?」
「だーっ!そういうの禁止って言ったはずッス!」
「あだっ!」
今度は俺の方が彩芽からチョップを喰らう。
やっぱり彩芽は可愛いって言われるのに慣れていないらしい。
「なんだよ…せっかく人が褒めてんのに」
「思ってもないこと言われても困るッス!」
「いーや本音だ。お前は──むぐっ!」
また可愛いと言おうとしたら彩芽に口を塞がれてしまった。そういう反応も含めての感想なのに。
仕方なく俺は両手を上げて降参のアピールをした。
「…もう言っちゃダメッスからね!」
「はいはい分かったよ…」
口を物理的に塞がれては仕方ない。可愛い爆撃で彩芽を照れさせるのは、ここいらが限界のようだ。
だが甘いな我が後輩よ…この
「そうだ彩芽、今日の放課後は暇か?」
彩芽への反撃はプランBに変更だ。
甘やかす手段が褒めるだけではないと教えてやろう。
「今日ッスか?暇ッスけど」
「じゃあ遊びに行こうぜ」
「えっ!良いんスか!?やったー!!」
大袈裟に飛び跳ねて喜ぶ彩芽。
何がそんなに嬉しいのかイマイチ分からんが、コイツの事だし誰かと遊べるのが嬉しいだけだろう。
誘う所までは順調。だがここからが鬼門だ。
「で!どこ行きます?」
「………………」
「先輩?どうしたんスか?」
「……どこ行こうか」
そう、完全にノープランなのだ。
「…先輩、まさかどこ行くかも決めないで私を誘ったんスか!?」
「仕方ねぇだろ!お前が何好きかもこっちは知らねぇんだし!」
「なら聞けば良いじゃないッスか!」
「だって…お前と一緒に遊べるならどこだって良いわけだし」
目的は彩芽を甘やかして、俺の事を舐めた言動を辞めさせることだ。そのために彩芽を知る必要があるから遊ぶのであって、別に拘りは無い。
極端な話、彩芽さえいれば後は何だっていいんだ。
「えっ…も、もーしょうがないッスねぇ先輩は!私はどこでも大丈夫なんで、行き先は放課後までに決めといてくださいッス!」
「おう!任せとけ」
約束を交わしたところで予鈴が鳴る。
去り際、彩芽の足取りがスキップしているように見えたのは、俺の気の所為じゃなかっただろうか。
∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵
そして迎えた放課後、俺は校門前で彩芽が来るのを待っていた。
さっきLINEで『準備するから遅れるッス!』と連絡があり、俺は待ち合わせ場所でアイツが来るのを待っているのだが──
「……遅くねぇか?」
午後の授業が終わったのが約1時間前。それから今までずっと校門前で待ちぼうけだ。
いくら女子の準備は時間が掛かるとはいえ、さすがに長すぎる気がしないでもない。ってか着替える訳でも無いのに何を準備するんだ?
「お待たせしました先輩!」
「遅せぇぞ彩…芽……」
「はい!貴方の後輩、犬守 彩芽ッス!」
元気いっぱいに敬礼する彩芽。その顔には朝は見られなかったメイクが薄らとだが施されている。
俺と出掛ける為にわざわざメイク直しをしたのだろう。なるほど、時間がかかったのはそのせいか。
だが時間を掛けた甲斐もあったのか、元々整っていた彩芽の顔に更に磨きがかかっている。
「んじゃ行くか。とりあえずテキトーに近くのショッピングモールにでも行こうぜ」
「あ、あの…凌我先輩」
「どうした?」
「私…変…じゃないッスか…?」
震えた声で彩芽が聞いてくる。
多分メイクのことだろう。普段はこんなことしないし、彩芽自身似合っているか不安に思っているに違いない。
「変な訳ねぇだろ。似合ってるよ」
「っ!…え、えへへ…!」
彩芽が嬉しそうに笑った。もう怯えた様子はなく、代わりにいつもの小生意気な表情をしていた。
「行きましょ先輩!早く早く!」
「お前を待ってたんだけどな!」
彩芽に手を引かれて、ようやく俺達は歩き出した。
さてと…俺も気合を入れねぇとな。この放課後デートで彩芽の好みを掴まなくては…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます