第二話 最強の魔術師
——八つの歳を迎える年度に入学試験を受ける事の出来る、この国で最高の教育機関、チヨコレイ塔魔術学院。
入学枠三百名に対して受験する者は万を越える。受験可能な年齢は十三まで。つまりは、五年間の入試期間があるのだが、実際のところ、二年目までに合格出来ないものに、その先も合格することなどは起き得なかった。
人は八歳までに魔術の才が現れる。
二年目で合格出来る者は、ただ単純に入試の時期がたまたま七つの歳にになったばかりで、そこで落ちて必死に一年自身を高めて八歳のうちに再度入試に挑めた者だけだった。
分岐の八歳。それ以降は、どれだけ研鑽を重ねても、学園の外ではそれ以上の成長は起き得なかった。
故に誰もが、この学園での研鑽を望む。
最高の教師、最高の環境、極秘の課題。
全てが兼ね備えられた環境で、さらに階級毎に優遇がなされる。
その基準は明らかにされてはいないが、上は一階級から下は十階級まで。階級毎に三十人に区切られ、更に研鑽を重ね、毎年下の階級から消えて行き、六年間の学園期間を終えて卒業と共に完全独創魔術を造り出せるのは僅か一割の者だけだった。
それでも、卒業さえ出来れば、将来仕事にも生活にも困らない。
故に誰しもが、この学園を目指し、卒業する為に命を燃やして研鑽を重ね続ける。
——入学初日。
八年間の研鑽と才能の全てを注ぎ、そんなチヨコレイ塔魔術学園に首席で入学したグミは、たった一つの愚かな行為で、陽光の様に明るい未来を自ら閉ざした。
「角砂糖って何だよ——クソッ!」
そして、その原因となったマトリカは自身の弱さに苛立ちを覚え、馬鹿な行動を取らせてしまった才能ある少年に嫉妬し、羞恥の炎を燻りながら三年間、その学園の同学年で常に最高の成績で君臨し続けた。
剣術。
魔術。
学術。
賞罰。
四つの要素を測る為に学園は一年を通して、常に階級内でランク付を行う。
最下層の階級は年を跨ぐ時期に消えて無くなり、そこに所属する全ての生徒は落第となる。
上に上がりたければ、年に一度だけ行われる階級戦で上の階級の者に勝ち、転級を果たすしか無い。
そんな学園でグミは三年間、必死に研鑽を重ねて一つずつ階級を上げて行った。
『ポリフ——久しいな』
『これは、これは
——グミに転級を言い渡し、人々が部屋から全員出た後で、椅子にもたれた背中を滑らせ大きく息を吐いていたポリフは、声の主の姿を見つけ、慌てて姿勢を整え、その反動で椅子を後方に放り投げて床に尻を付けた。
『そんなに慌てるな。楽にしろ』
『年寄りの心臓を痛めるとは。わしが死んでしまいますぞ?』
『だったら、若返らせてやろうか? それくらいの対価をお前は払っていると思うが?』
『いえいえ、そんな、ワシだけがクラウン様の特別扱いを受けますと、逆に早死にしてしまうというもの』
『そうか?』
『そうでございます——左様、どうしてこんなところに?』
コツン——
と、クラウンの後に続いて少女の高いヒールが地面を掴む音が響く。
『
凪の様に穏やかな人生だった。
争いは向こうから避けて通る。
法の申し子と謳われたポリフと争おうという気になる者など、数える程しかいなかったのだが。そんなポリフだからこそ、災いの香りには敏感だった。
『あら? なーに? 私が居たらダメかしら?』
小柄な少女は身体の三分の一程を占める大きさの書物を小脇に抱え、首を傾げて鋭い眼光でポリフを見つめる。
『ティア——』
『ごめんなさい、アイラ。怒らないでぇ』
『少し黙ってろ?』
『はーい』
『ポリフ、悪かったな』
『いえいえ、滅相も御座いません。私の方こそ失礼が御座いましたら、誠に申し訳ありません』
深々と頭を下げる、懲罰を決める最高機関の長に対してアイラは肩を叩き頭を上げさせる。
『どうだった? あいつは?』
『あいつ……グミですか?』
『そうだ。アレは危険過ぎる。この数百年の歴史を一日で無に記す存在だ。アレから目を離すな』
『は、はぁ。しかし、その様には見えませんでしたが、愚鈍な私めにお教え願えないでしょうか? 何が危険なのかを』
『アレは妖精に目を付けられている。お前だったら分かるだろう? それがどれだけ危険な事か』
それを聞いたポリフの顔から血の気が引いて行き、起き上がったばかりの身体を支えるのがやっとだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます