第34話意外な再会

春人……、春人なの?」



 旦那らしき人と、小さな子供と手をつないだ女性が俺を見て、大きく目を見開いたかと思うとこちらへとやってくる。その瞳には懐かしさと……わずかな後悔の色があるのは希望的観測だろうか?

 そんな彼女に俺は何と答えていいかわからず……



「いえ、人違いですよ。彼は夏人君です。そして、私の大切な人ですよ」

「え……? は……」



 代わりに想が答えてくれる。夏人ってちょっと安直じゃない? と思うが、彼女が俺と母親と呼んでいた女性との間に入って視線を遮ってくれるのはありがたい。

 そんな想の反応に混乱していた彼女だったが雪乃を見ると、助かったとばかりに声を上げる。



「あなたは雪乃ちゃんじゃないの!! やっぱりこの子は春人じゃないの」

「いえ……私は夏乃と言いますし、この人は夏人です。私の大切な人なんです。知らない人が馴れ馴れしく呼ばないでくれませんか?」



 お前らどんだけ夏が好きなんだよ!! とツッコミをいれたくなるが今がそんな場合ではないということくらいはわかる。

 そして、二人のおかげで少し気が落ち着いたと思う。大きく深呼吸して、彼女に話しかける。



「久しぶりですね、幸せそうで何よりです」

「春人……」



 俺は母と呼んでいた女性を見て、後方で不思議そうな顔をしていた少年と気まずそうなの男の人を見て敬語で返す。なぜ彼女は声をかけてきたのだろうか?

 その答えはすぐにわかった。



「春人……あの時はごめんね……ずっと、謝りたかったのよ……」



 まるで悲劇のヒロインのように涙をためる彼女を見て、俺はすーっと心が冷めていくのを感じた。



 ああ、そうか……この人は単に許してほしいだけなのだ。本当に謝りたいのならばこんな風に偶然に頼るのではなく、実家なりに連絡をすればよかったというのに……

 そして、わかってしまった。彼女が愛しているのは俺じゃない。自分自身なのだ。俺を捨てた彼女は俺の為ではなく、自分が楽になるためだけに謝ろうとしている。他人を重く愛しすぎるヤンデレとは正反対で、何とも軽薄な気持ちであろうか。

 それがわかった俺は思わず鼻でわらってしまった。



「ふっ……」

「春人……?」

「いえ、俺の方で話すことはありません。あなたにも家族がいるのでしょう? 俺にも大切な家族がいるんです。だから、もうお互いかかわらないでいいじゃないですか」

「そんな言い方……」



 俺の言葉に彼女がつらそうな顔をするが不思議と心は痛まない。いや、嘘だわ。ちょっとだけど胸が痛んだのは事実だ。

 これ以上一緒にいてもしんどくなるだけなので俺はその場から離れようとする。 



「春人にはもう二度と会わないでください」

「あなたは一体何なのよ」

「私は……春人の家族です。ね、雪乃ちゃん」

「はい、私たちが春兄は支えるので安心してください」



 それは拒絶だった。母と呼んでいた人の顔が悲痛に歪む。彼女にも物語はあったのだろう。ひょっとしたらどうしても離れなければいけない理由だって会ったのかもしれない。

 だけど、今はもうどうでもよかった。俺にはもう、本当の家族がいるのだから……

 


「二人とも……観覧車に乗らないか?」



 俺を心配して心配した顔で両サイドにくっついてくれる二人にお願いすると、想も雪乃も満面の笑みで頷いてくれた。





カクヨムコンテストように新作をあげました。

読んでくださるとうれしいです。


『破滅フラグしかないラスボス令嬢(最推し)の義兄に転生したので、『影の守護者』として見守ることにしました〜ただし、その正体がバレていることは、俺だけが知らない』


推しキャラを守る転生ものとなっております。


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