第33話
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「え?……ちょっと待ってよぉぉ!!」
お化け屋敷の方につくとさっそく出口から半泣きの少年に少し遅れて、がん泣きの女の子が出てくる。どうやらカップルで入ったのに、男の方が彼女を置いていったようだ。
まって……こんなに怖いの? やばくない?
俺も別にお化けとかが得意というわけではない。ヤンデ霊は好きだが、普通の幽霊は普通に怖いのだ。雪乃は……というと、彼女もまた俺と同様に顔を青ざめている。
「春兄……」
そうだよ、こいつも子供の時に井戸から出てくるS子さんの映画見て発狂してたわ。そのあと一緒に寝たわ。普通にこわいのダメじゃねえかよ!!
きっと想も笑顔を浮かべているが内心は怖がっているのだろう。だったら俺にできる事は一つしかない。
「二人とも安心してくれ。お前らは俺が守る」
「春人……」
「春兄……」
二人から熱い視線を感じ、そのまま抱き着いてくる。甘い匂いと柔らかい感触が俺を鼓舞してくれる。そして、周りからはリア充死ねという視線が襲ってくるが気にしない。
ふはははは、今日の俺は幽霊すらも凌駕する存在だ!!
「次の方どうぞーー!!」
「いくぞ、二人とも」
「「はい!!」」
そして、お化け屋敷に入った俺は……
「にぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
いきなりガチなゾンビメイクしたキャストと目が合って情けない悲鳴をあげるのだった。
お化け屋敷の中は病院をモチーフとしているようで、実際に使われていたであろう手術台などがあり臨場感がある。
「こ、こういうのはしょせん作りものだもの……恐れる必要はないわ」
「ああ、そうだな……」
強がっていること言う雪乃だが、その声色は震えており、俺の手を痛いほど握っているのがわかる。そして、目の前で怖がっている人がいれば不思議とこちらは落ち着くものである。
安心させるように、先ほどから無言の想に話しかける。
「まあ、こわかったら俺の手を握って目をつぶっていればいいからさ。出口まで連れいくから安心してくれ」
「うふふ、心強いですね、春人。たまには甘えるのもいいかもしれませんね」
あれ、なんかいつものあんまり変わらない気がするんだけど……そういえばさっきの入り口でも悲鳴を上げていたのは俺と雪乃だけだったような……
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「……きゃぁぁぁぁぁぁ」
手術室に横たわっていたゾンビが起き上がり、半泣きになった雪乃に一瞬おくれて想悲鳴を上げながら俺に抱き着いてくる。
二人を絶対離すまいと、抱きしめつつ俺は先へと進む。
「うおおお!!??」
「きゃぁぁぁぁ!!??」
「うふふ、怖いですね♪」
情けない悲鳴を上げながらも俺たちは三人でかたまりながらも歩いていると恐怖よりも楽しさが増していく。
なんだろう、確かに怖い……怖いけどさ……なんだかこういうの良いな……みんなで……一緒になって進んでいるからだろうか? 不思議とリタイアするって気持ちはなかった。
「そのさ……こんな時だけどさ、俺は二人と一緒に入れて幸せだよ。これからもこんなことがあるかもしれないけど、三人でなら乗り越えれると思うんだ」
「春人……そんな風に言ってもらえてうれしいです」
「春兄……私も同じきも……きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
想が感極まったとばかりに目をうるわせて抱き着いてきて、雪乃も同様に抱き着こうとするが悲鳴を上げたので胸元に引き寄せてやる。
彼女たちのぬくもりがなんとも心地よい。
お化け屋敷ってこんなにいいものだったんだな。
そんな風に思いながらあとにするのだった。
「うう……春兄、想先輩……今日は一緒のベッドで寝るわよ、絶対だからね」
「もちろんです。私も怖いので、今夜はずーっと手をつないでいてくださいね……離しちゃいやですよ?」
お化け屋敷を出ても怖いのはひっついている二人と共に最後の目的地へと向かう。観覧車が俺にとっても思い出の場所だ。
『ごめんね……春人』
涙ぐみながら言った母親と呼んでいた女性の顔が一瞬浮かび、顔をしかめると、俺を抱きしめる力がつよくなった。
「楽しい思い出にしましょうね、春人」
「ああ、ありがとう」
想のやさしさに感謝して、並ぼうとした時だった。視線を感じて顔をあげると、そこには今さっき見た幻覚がそのまま老けた顔があった。
「春人……、春人なの?」
「な……え……」
そこには小さな子供と手をつないだかつて母親と呼んでいた女性がいたのだ。
カクヨムコンテストように新作をあげました。
読んでくださるとうれしいです。
『破滅フラグしかないラスボス令嬢(最推し)の義兄に転生したので、『影の守護者』として見守ることにしました〜ただし、その正体がバレていることは、俺だけが知らない』
推しキャラを守る転生ものとなっております。
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