第32話 遊園地デート

かつてよく見ていた後姿に動揺してしまった俺だったが、深呼吸して落ち着かされる。あの人との最後の思い出の地だからこそ、つい見間違えてしまったのだろう。



「まったく……少しは大丈夫になったと思ったんだけどな……」



 何年も昔のことだというのに思ったよりも引きづっているようだ。そんな風に自虐的に笑っていると両目がいきなりふさがれてしまう。何者かに背後から忍び寄られて目隠しをされたのだろう。だけど、柔らかい感触と甘い匂いですぐに誰だかわかってしまう。

 てかさ、まったく気配を感じられなかったんだけど!!



「だーれだ?」



 雪乃の可愛らしい声が耳元から聞こえてきたので俺は目隠しされて彼女の感触を楽しみながら答える。



「目隠ししているのは想で、声を掛けたのは雪乃だな」

「流石です、春人くんには私たちのいたずらなんてすぐにばれてしまいますね」

「まあ、春兄がいくら鈍感だからって私たちを間違えるはず何てないですものね」

「そりゃあまあな……」



 つい想と雪乃の胸元に視線を送ってしまいながら答えると、それまで嬉しそうな雪乃の瞳からハイライトが消え笑顔で訊ねてくる。



「春兄……どこで判断したか教えてもらってもいいかしら?」

「あー、二人とも今日の服装似合ってるぞ。無茶苦茶かわいいな!!」

「もう、春兄ってば適当に誤魔化して……」

「うふふ、ありがとうございます。このために二人で選んだんですよ」


 

 俺が誤魔化すように話を変えるがそれは嘘ではない。双子コーデというやつなのだろう。色違いのレースをあしらったワンピースを身に着けた彼女たちは、豊かに盛り上がる胸元と、可愛らしい笑顔の想とすらりとしてクール美人系の雪乃は相反する魅力をもっており、今も男たちの視線をあつめている。

 あ、今、カップルの男が二人を見てて彼女に怒られてた。



「せっかくだし、早く遊園地を楽しもうぜ、色々回りたいし」



 二人に手を差し出すと笑顔でつないでくれる。彼女たちとのぬくもりを感じると先ほどまでの不安な気持ちが和らいでいくのがわかる。そして、事情を知っている雪乃が優しくだけど、力強く俺の手を握りしめてくれる。



「春人くん……心なしかいつもよりも元気がない気がします。ここになにかあるのでしょうか? もしかしてあの写真の女性と何か関係が……?」

「想先輩それは……」

「雪乃……大丈夫だ」



 俺は手を握ったまま想の瞳をまっすぐに見つめる。彼女もまた俺から一切そらさずに、すべてをうけとめるとでもいうように見つめ返してうなづいてくれた。



「ここはさ……俺が母と呼んでいた人と最後に遊びに行ったところなんだよ。そして、彼女は……翌日俺をおいて出ていったんだ」



 そう、ここが俺が他人を愛せなくなったきっかけの場所なのだ。だからこそ、俺は二人と一緒にいって上書きしたかったのだ。



「……そうなんですか……では、今日はたーくさん遊んでよい思い出を作りましょうね」



 想はそう言ってほほ笑むと優しく俺の手を包んでくれる。そして、ついでとばかりに豊かな胸をおしつけてくる。



「想……?」

「うふふ、春人君の持っているエッチな漫画にあったのですが……あれですよ、『大丈夫、おっぱい揉む……?』みたいなものです」




 くすりといたずらっぽく笑う想に感謝にながら、「確かにおちつくな……」と俺がその柔らかさを堪能していると、もう片方にもささやかな何かが押し付けられた。



「雪乃……骨が当たっていたんだが?」

「ふん、どうせ、私は小さいですよ……」



 ぷいっと拗ねているが彼女もまた俺を心配してくれているのだ。



「ありがとう、今日は一日中楽しむぞ!!」



 そういって、俺たちは遊園地に足を踏み入れる。二人がやたらとくっついてきているおかげで歩きにくかったけど、とてもうれしい気持ちになったのだ。




「うおおおおおおおお!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」




 せっかくだからということで、絶叫マシーンにのった俺たちだったが、まじでやばいなこれ……恐ろしい落下間に思わず雪乃と共に悲鳴を上げてしまう。

 想は……と半泣きになりながらも視線をおくるといつものようにニコニコとほほ笑んでいた。




「うふふ、風が気持ちいいですね」



 メンタル強すぎない? この子には弱点とかあるのだろうか……?




「ふー、死ぬかと思った……」

「うう、地面です……いっぱいいっぱいで春兄に抱き着く余裕もなかったわ……」

「うふふ、二人とも大変そうでしたね。よかったらこれをどうぞ」



 想は楽しそうにほほ笑みながらへろへろの俺たちにペットボトルを渡してくれる。まさに至れり尽くせりである。



「ありがとう、絶叫系には強いみたいだけど、想は苦手なものとかないのか?」

「うーん、そうですね……しいて言えばお化けとかちょっと苦手でしょうか?」

「ほう……なるほどな……」

「春兄……いきますか」



 想の言葉に俺と雪乃が以心伝心とばかりにうなづきあった。もちろん想をいじめたいというわけではない。ただ、ちょっといつも動じない彼女が驚いたところを見たいと思ったのである。



「どうしましたか?」

「いや、雪乃がどうしても行きたいって場所があるらしいんだ。付き合ってくれるか?」

「ええ、遊園地にいったら絶対行きたいって思ってた場所があるの!!」

「うふふ、もちろんですよ。お二人と一緒ならばどこでもいっちゃいます」



 よし、言質はとった!! 俺と雪乃が想の手を引張りながらもお化け屋敷へと向かう。しかもここはただのお化け屋敷ではない。日本でも1.2位を争うお化け屋敷なのである。

 この時気づいていなかったのだ、想が楽しそうに……まるで計画通りとばかりにほほ笑んでいたことを……




カクヨムコンテストように新作をあげました。

読んでくださるとうれしいです。


『破滅フラグしかないラスボス令嬢(最推し)の義兄に転生したので、『影の守護者』として見守ることにしました〜ただし、その正体がバレていることは、俺だけが知らない』


推しキャラを守る転生ものとなっております。


https://kakuyomu.jp/works/16817330668867955895


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