第30話 ヤンデレの力

「なあ……俺がこんな格好する意味あるのか? 恥ずかしくて死にそうなんだが……」

「ああ、必要なことなんだよ」



 俺の隣を歩いているのは、藤村である。ただし、服装は雪乃の予備の制服で、黒い長い髪のウィッグをかぶっている。

 想には今日はちょっと予定があるから友達と食べていてくれといっていたから問題はないはずだ。そして、発信器をつけた雪乃が俺のことをおもうヤンデレ美少女だったらこの罠にひっかかるはずだ……



 彼女がくれば俺は雪乃がヤンデレ美少女であると確信できるのだ。



 そう思ってラブホ街を歩いていると……



「春兄!! 学校をさぼって何をやっているのよ!!」




 案の定雪乃が息を切らしながらやってきた。試すようで悪いとは思うが、そもそも人に発信器をつける時点であれである。

 まあ、俺的にはヤンデレポイント高くて素敵だけど!!



「雪乃ここがわかるっていうことは、やっぱりお前が発信器をつけていたんだな?」

「う……それは……これはトラップですか」

「え? 発信器? てか、俺が言うのもあれだけど雪乃ちゃん学校は?」



 状況がわかっていない藤村とは対照的に俺の言葉ですべてを察したのだろう。雪乃が目をそらし……俺が一歩彼女によろうとするとぞくりとすさまじい圧力をかんじた。



 なんだ……、これ……?



 それは圧倒的なまでの感情の塊だった。俺はまるでサキュバスにでも魅了されたかのように雪乃とは反対からやってきた少女に視線が引き寄せられると、そのまま目を離せなくなってしまった。



「春人……そんなことよりもここで何をやっているんですか? その女性はだれですか?」

「ひぃ!? 白金さん……?」



 そこにいたのは想だった。いつものように満面の笑みを浮かべてはいるけれど、その瞳からはハイライトが消えており、渦の様に様々な感情が渦巻いているのを感じる。

 その圧力にたらーっと俺の頬を冷や汗が垂れていき本能が選択肢を間違えたら危険だと訴えていた。これが白金想の本気なのだろう。あのお泊り会で俺は彼女を受け入れるといった。それがこの結果だとしたら……



「想こそなんでここにいるんだ?」

「それは……私が想先輩に相談したのよ」

「春人君……質問に質問で返すのはダメですよ?」

「ひぃぃぃぃ、なんか白金さんがこわいよぉぉぉ」



 感情を抑えているはずなのに何かがあふれ出しそうな想の言葉に藤村が腰を抜かしてウィッグがはずれる。てか、ジョジョのようなことを言ってきたな。

 というか……藤村は何がこわいのだろうか? だって彼女は……こんなにも俺を想ってくれているのだ。


 まさに理想!! まさに最高である!! 義理とは言え兄に、発信器をつけるのも素敵だし、親しくしているとはいえ友達にこんな人殺しの放つような殺気を放つのも最高すぎるのだ。

 そして、俺は確信する。



 彼女たちこそが俺の求めていたヤンデレヒロインなのだろうと……



「ああ、なるほど……春人君は雪乃ちゃんが自分に発信器をつけているのかを確かめるためにわざわざこんな茶番をしたんですね。もう……可愛い義妹さんを試すのはダメですよ」


  

 一緒にいたのが藤村だとわかった想から一気に殺気が霧散し、瞳にハイライトが戻っていく。

 


「春兄のいじわる……」

「ああ、わるかった。でも、どうしても知りたかったんだよ」

「え? ねえ、さっきから発信器とか何の話? 結局俺はなんで女装させられたの? 怖い思いをしたのに蚊帳の外なんだけどおかしくない?」



雪乃だけでなく想もきたのは予想外だったが、結果的に二人とも俺のことを想ってくれているヤンデレ美少女だということがわかった。



 あとはどう恋人になるかだ……そして、俺はどちらが好きなのだろうか……? いざヤンデレ美少女が目の前にやってきたとはいえ同時に二人というのは悩ましい。というか今まで三次元にいるとは考えていなかったので混乱しているというのが正しいのだ。



「でも、春人の行動で私と雪乃ちゃんはちょっと傷ついたので、今後こんなことがないように色々とお話をしましょう。幸いここらへんにはお話に適した場所がたくさんありますし……」

「「「はっ?」」」



 想がやたらと色々に力を込めて言う。俺たちが間の抜けた声を上げるのも無理はないだろう。だってここラブホ街だし……話し合いに適しているんじゃないよ。エッチなことをするのに適してるんだよ?

 いや、密室だから話し合いには適してるのか? 防音もあるしな……でも、こういう時にまじめな雪乃が絶対拒否するだろう。

 そう思って彼女を見ると、なにやら想にささわかれて顔を真っ赤にし口をパクパクとしていた。



「そ、そうですね……私も賛成です。というわけでいくわよ、春兄」

「雪乃!?」



 俺の予想とは裏腹に雪乃が腕をつかんで近くのラブホに連れ込もうとしてきた。



「藤村君、大変申し訳ありませんが私たち三人は家庭の事情で早退すると先生にお伝え願いますか?」

「は、はい……わかりましたぁぁぁぁぁ!!」



 先ほどの想にビビっている藤村はまるでこわれたおもちゃのように首を縦にふってそのままにげだしやがった。

 薄情じゃない?



「では、春人君いきましょうか? ちょうどそこがお城みたいで綺麗ですね」

「え、でも俺たち制服だし……」

「コスプレだと言い張りましょう」

「でも、お金は……」

「安心してください。私が腐るほど持っています」



 そして、登校した時と同様に右に雪乃、左に想のフォーメーションでラブホに連行されていくのだった。藤村には申し訳ないなと思ったが、あいつも前に俺を裏切ったしな……




 制服を着た未成年だというのにあっさり入れたことに驚いた俺と雪乃はドキドキしながら、ラブホの部屋に入る。



「なんというか緊張するわね…」

「ああ……そうだな……」



 中は大きめのベッドに、テレビという明らかにそういうことをするというのがわかる部屋に俺と雪乃が緊張しながらきょろきょろとしていると何をやっていたのか、水が流れる音がしたかと思うと遅れて俺たちの後ろの立った想が口を開く。



「さて、始めましょうか?」

「ああ……といっても俺はもう二度と二人を悲しませることはしな……うおおおお!?」

 


 これも合気道だろうか? 想に腕を握られたかと思うと言葉の途中でベッドに押し倒された。



「あの……想さん……?」

「私思ったんです……春人君は私と雪乃ちゃんがどれだけあなたのことを想っているのかぜんぜんわかってくれていななって……だから既成事実を作ろうと思うんです」


 

 まるで捕食者のように俺に覆いかぶさるようにして乗っかる想の瞳は爛々と輝いており、いつの間にか制服のボタンが少しとれており、豊かな谷間がのぞいている。

 これは……話し合うつもりじゃない。まじで致すつもりだーーー!! 





 さすがにまずいだろうと雪乃に視線を送ると彼女もまた上着を脱ぎ始めていた。



「わ、わたしも賛成よ……春兄がほかの女を気にしないくらい私たちで夢中にして見せるわ」

「うふふ、約束しましたよね、春人君。家族になってくれるって?」



 家族ってそっちだったのかよ……そして、俺は今更気づくのだ。すでに彼女たちの好感度はマックスで、とっくに俺を異性としてみていたのだと……

 そして……俺の息子がむっちゃ元気になっていた。




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