第29話 春人はヤンデレを知りたい
学校につき、想と教室に入ろうとするとある人物に廊下へと拉致されていた。
「なあ、春人……お前になにがあったんだ? 白銀さんと雪乃ちゃんどっちが本命なんだよ!! なんでおまえばっかりモテてんの!? お前は俺と同じ非モテだったろうが!!」
「質問多すぎるんだよ!! 落ち着けって?」
「落ち着いてられるか!! 俺も雪乃ちゃんにののしられたし、白金さんに笑みを浮かべられながら馬鹿にされたいんだよ!!」
「俺にそんな性癖はないんだが!?」
そう、藤村である。俺たちが三人で仲良く(家族的な意味で)登校してきたのはもはや教室でも話題になっていた。元々想や雪乃とは仲良かったが今回のはやりすぎだったということだろう。
「やっぱり俺たち特別な関係に見えるか? 友達とか家族とかじゃなくて……」
「喧嘩売ってんのか!! お前は!! どこに中学生三年生で手をつないで登校する義妹がいるんだ!? どこに胸を押し付けながらいちゃいちゃして登校するクラスメイトがいるんだよ!!」
「だよなぁ……」
藤村の叫びに扉越しに俺たちのやり取りに聞き耳を立てていた男子生徒たちも力強く頷いた。こいつらどうどうと盗み聞きしてるな!!
「やっぱり俺たち付き合っているような感じに見えるよな……?」
「そりゃあそうだろ……だけど、その表情……お前もまんざらじゃないんだな?」
自分で言っていて恥ずかしくなりながら聞くと、藤村の表情が先ほどまでの咎めるようなものからまじめなものに変わる。
「彼女が……いや、彼女たちがお前が求めていたヤンデレ少女なのか?」
「ああ……多分想もだけど……雪乃もそうなんじゃないかと思ってるよ」
「そうか……悔しいし、うらやましいし、ハーレム作ってて死ねとは思うけど、お前が他人と恋愛する気になって俺はうれしいよ」
「藤村……」
こいつは俺の子供のころからの友人だ。俺の母親が出て行ったことも、そのせいで人間不信になったことも、ヤンデレ好きになったことも全て知っている。そんなこいつが喜んでくれて俺はいい友人を持ったなと思う。
いや、その前に死ねといってきてんな? 本当に友達か?
ふと頭によぎったがスルーする。
「だけどさ……ラノベとか読めばわかるかもしれないが、ヤンデレ美少女たちの行動は俺たちの常識を多く外れているんだ。だからさ……ちょっと協力してくれないか? まずは雪乃が真のヤンデレ美少女なのかどうかを知りたいんだ」
「いや、お前の行動も十分常識を外れてんだろ……」
俺がカバンから取り出したものを見て藤村がなぜかため息をついた。
「だけどまあ、付き合ってやるよ。せっかくお前が恋愛する気になったんだからさ……そのかわり俺が誰かを好きになった時も協力してくれよ」
「ああ、ありがとう。作戦はこうだ……」
そうして、俺たちは男同士の作戦会議をはじめるのだった。
★★
「春人はどこにいったのでしょうか?」
お昼休みになって、藤村と一緒に出掛けた春人のことをおもって想は一人寂しくお弁当を食べていた。事前に今日はお弁当は不要だと言われていたから用意していないのだがやはり寂しいものは寂しい。
彼からはたまには友達とお弁当食べなよと言われたがとてもではないがそんな気持ちにはなれない。それだけ彼のことを想っているのである。
「私のことを受け入れてくれるって嘘ではないですよね……」
今朝の海堂という少女とのやり取りを思い出して心に暗いものがどんどん募っていくのがわかる。春人は自分では気づいていないが結構モテると思う。現に雪乃はもちろん、海堂も彼に好意的だというのは一目見てわかった。
「やはりばれないようにこっそりとつけるべきでしたかね……でも、男性同士でおしゃべりする時間もほしいでしょうし……」
「お待たせしました。想先輩」
一人で悩んでいると給食を食べて急いでやってきたのか、息を切らした雪乃がやってくる。そんな彼女に手作りのデザートの入ったお弁当箱を差し出すが、それどころではないとばかりに口を開いた。
「春兄と藤村先輩が学校を出ていったのですが何か知りませんか」
「学校の外ですか……コンビニでも行ったのでしょうか? いや、でも……春人くんの性格上何か食べたいものがあるならいったんは購買で我慢するはず……なら藤村君が何か言った……?」
想定外の行動に対して想がぶつぶつと分析することにする。付き合いこそ短いが彼のことをずっと見てきたのだ。行動パターンの把握は大体できている。
「私たちのお泊り大作戦が功を奏したのか最近は春兄も恋愛に興味を持ち始めたみたいなんです。現にネットの検索履歴に『気になる子に好意を持ってもらうには?』とか『雰囲気のよいデートスポット』、『エッチなヤンデレラノベ』などがありました」
「それは良いことでは……?」
ごそごそと春人につけた発信器の受信機をカバンから取り出す雪乃言葉に、もしも、春人君が私たちとのデートをとかを考えて居たらなとちょっとにやけていた想だったが、次の言葉で表情が固まる。
「ですが……もしも、私たち以外に興味をもっていたらどうしますか? 例えば……藤村先輩が女の子を紹介するとか……」
「なるほど……処刑しなければいけませんね……」
想の目がすぅーーーと感情を失う。もちろん、春人は大事な人間である、傷つけるつもりはない。だがそれに群がる害虫がいたら……自分でもどうするかわからなくなりそうなくらいの胸から熱さを感じてきた。
そんなことはないだろうと思う反面、イレギュラーな行動をとった春人が引っかかる。万が一ということもあるのではないだろうかと頭をよぎる。
「ようやく目的についたようです。春兄の動きが止まりました! ここは……」
「ラブホ街ですね……」
いつか春人や雪乃と行きたいなと思っていたのだ。間違えるはずもない。その後の二人は迅速だった。想と雪乃は無言で頷きあって、お弁当もそのまま放置し、春人のもとへと向かうのだった。
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