第28話 新しい日常

 想の家でのお泊り会は無事終わり、俺の日常には色々と変化があった。一つは想や雪乃を俺が好意を持っている異性として認識したこと……



「春兄……もう、朝ですか?」

「ああ、さっさと起きるんだ。もう、朝ご飯ができているみたいだぞ」

「うう……もうちょっと寝たいです……春兄が運んでください」



 普段の優等生っぷりはどこに行ったのか、雪乃はそう言うと俺のパジャマの裾を握って再び寝息を立てる。



「うふふ、雪乃ちゃんは本当に春人にべったりですね。でも、春人もつかれたら私にたっぷりと甘えていいですからね。まだ時間がありますし、膝枕とかどうですか?」



 朝ご飯の準備をあらかた終えたであろう想が俺の部屋に様子を見に来た彼女は、座ると自分の膝をぽんぽんと叩く。

 二つ目は雪乃は素直に甘えてくるようになり、想は隙あらば俺を甘やかすようになっていた。あとはまあ、当たり前のように侵入して朝ご飯を作ってくれている。(いつの間にか鍵をつくっていたらしい。ヤンデレっぽくて最高じゃない?)



「じゃあ、ちょっと休ませてもらおうかな?」



 想の柔らかいふとももに頭をのせると彼女の体温と共に甘い匂いが鼻孔を刺激し、何とも心地よい。



「うふふ、私、春人君に甘えてもらうの大好きです!!」

「俺も想に甘やしてもらう好きになってきたなぁ……」

「やっぱり春人も雪乃ちゃんも優しいです。こんな私を受け入れてくれて……」



 どこか恍惚とした顔をして想は俺の髪を撫でてくれる。その表情は本当に嬉しそうで……俺まで嬉しくなってしまうのだった。



 そして、朝ごはんを食べた俺たちは三人で一緒に登校する。ただし、右手に雪乃と左手は想がと手を握っている。

 今、万が一すっころんだら大惨事である……じゃなくて。



「あの……さすがに外では恥ずかしいんだけど……」

「何を言っているの、昔はよく手を繋いで登校してたじゃない?」

「うふふ、ダメですよ。この前私に甘えてくれるって約束したばかりじゃないですか?」



 なぜか離れるどころか二人とも俺の手を握っている力が強まっていく。どうもあのお泊り会から二人のリミッターが外れてしまったらしい。

 だけど、そんな二人を見ていると自分の中の心が高ぶってくるのを感じるのだった。そして、周囲の生徒たちからちらほらと視線を感じつつも登校していると疾風がやってきた。



「あ、雪乃っちに安心院先輩じゃん。ようやく素直になったんだね」

「お、海堂か久しぶりだな」

「茜ちゃん走るときは前を見たほうがいいわよ。それと……その節はいろいろと話を聞いてくれてありがとう」



 俺たちに話しかけてきたのは女性にしては長身ですらりとしたショートカットの似合う美少女だ。スカートからのびるその足は引き締まっており、何とも美しい。こういうのを健康美というのだろう。

 彼女の名前は海堂茜。わが学校のニ大美少女の一人であり、雪乃の親友でもある。テニスでスネークとか使いそうな名字だよな。



「それと……この人がうわさの白金先輩かな……雪乃っちずいぶんと仲良くなれたんだね」

「初めまして、白金想と申します。春人や雪乃ちゃんとはお友達なのですか?」

「春人……かぁ」



 話を振られた想があいさつすると、海堂は一瞬大きく目を見開いた後に、俺と想がつないだ手を見つめ何ぼそりとつぶやいた。



「私は海堂茜って言います。雪乃っちとは親友で安心院先輩は……私のコーチかな?」

「コーチって言っても緊張しがちなお前のあがり症を治すのを手伝っただけだろ……今や全国クラスのテニスプレーヤーじゃん」

「へぇー、海堂さんはすごいんですね。私は運動できないんで尊敬します」

「ふっふっふ、サインをもらうなら今のうちですよ」



 想に褒められて調子に乗ってピースサインする海堂。まあ、こいつは調子にのるくらいすごいんだが……



「それよりも通学中にそんな走るなよ? こけて怪我したりいろいろと見えちゃうぞ」

「もう、安心院先輩は心配性だなぁ……いつも走ってるんだからこれくらい大丈夫だし、スカートの下はスパッツを吐いているから大丈夫だよ。ほら!!」

「おい……」



 海堂は得意げにスカートをバッと引き上げると、その中身が露わになる。その中にあるのはジャージ……ではなく、可愛らしいくまさんの描かれた白い布が彼女の下半身を心細く守っており……

 視界が真っ暗になったぁぁぁぁぁ!!



「茜ちゃん!! スパッツ吐き忘れてるわよ!!。丸見えじゃないの!!」

「え……?」

「春人君……私たち以外の女性の下着を見るのはマナー違反ですよ」



 すさまじい力で目隠しされた俺が解放されて視界に入ったのは顔を真っ赤にしてスカートをおさえている海堂だった。

 彼女と目があうとなぜか涙目になって……



「安心院先輩のえっちーー!!」

「お前が見せたんだろうが!!」



 そして、そのまま駆け出して行ってしまった。まるで嵐のようなやつである。



「俺たちも行こうか……いって」



 気を取り直そうと二人に声をかけるもなぜか、雪乃がジトーっとしたハイライトの消えた目で見つめ力強く手を握りしめてきたいのだ。



「あの……痛いんだけど……」

「別に春兄が悪くないのはわかるけど……見すぎよ、変態」

「いや、今のはしかたがな……想?」



 慌てて機嫌を直してもらおうと、雪乃の機嫌を取ろうとすると今度は左腕がやわらかいものに包まれる。この感覚は……おっぱいである。



「春人君がほかの女の子をエッチな目で見ないようにたっぷり甘やかしてあげますね。でも……あんまりほかの女の子を見てばかりいると私も我慢できなくなっちゃいますよ」



 にっこりとほほ笑んでいるが、その瞳には感情はなく、ヤンデレモードになっているのがわかる。どうやら二人は海堂のパンツを見てにやけたことを怒っているようだ……



 やっべえ、最高じゃん!!



 俺は二人が俺のことを考えてくれるのがうれしくて、満面の笑みを浮かべて登校するのだった。この光景がはたから見たらどうみられるかも考えずに……




 ★★


 そして、少し離れたところに一人の少女が手をつないで登校する三人をうらやましそうに見つめていた。



「雪乃っち……なんで、春人先輩のそばに他の女がいるのに怒らないのさ……だったら私でもよかったじゃん……」


 その瞳からは徐々にハイライトが消えていくのだった。





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それではまた明日の更新で


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