第25話 春人と想
「うふふ、雪乃ちゃんは甘えん坊さんですね。春人君とのお風呂を楽しめたようで何よりです」
「もうこんな時間でしたか……そろそろのぼせてしまうので出ますね。あとは頼みましたよ、想先輩」
義理の兄と妹が抱き着いているところを見たというのになぜか嬉しそうな想の言葉に、雪乃は顔をまっかにしつつも俺から体を引き離してそのままシャワーを浴びはじめる。
ちょっとなごりおしいなって思ったのは内緒だ。
「春兄はこのままお風呂にいてくださいね。まだ湯舟にも使ってないでしょう?」
「お風呂に入ろうとしたらお前が甘えてきたんじゃないか……」
「……せっかくのチャンスなんですもの。我慢できなかったのよ」
雪乃はぼそりというと顔を真っ赤にしたまま出て行ってしまった。そして、俺は入れ替わりに入ってきた想に視線を送る。
少し子供っぽかった雪乃とは対照的にビキニという攻めた水着からのぞく豊かな胸元に、むっちりとした太ももが何ともまぶしい……てか、おかしくない? 風呂場なのになんで水着なの? お嬢様は入浴もヨーロピアンスタイルなの?
「ふふ、雪乃ちゃんはちゃんと春人に甘えることができたみたいですね、よかったです」
「いや、よかったのか……というか、なんで水着なんだ? 想の家ではお風呂では水着なのか?」
もしかしたらお嬢様はそういう風習でもあるんだろうか? 海外とか温泉でも水着だしな。
「うふふ、そんなはずないじゃないですか。その……さすがに私も異性と裸でお風呂に入るのは恥ずかしいので……」
「俺は裸なんだけど!?」
まあ、とっさにタオルを巻いてはいるが防御力が低すぎる。まあ、それはともかくこの状況がまずいということは俺だってわかっている。
「じゃあ、俺は想が出たらお風呂を楽しむことに……」
タオルを抑えながら立ち上がろうとすると、その腕をとらえられた。まずいって……みえちゃうって!!
「ダメです!! 私とも一緒に入ってください。雪乃ちゃんだけずるいです!!」
「あいつは義妹だから……うおおお」
合気道って奴だろうか、そのまま腕を引張られると、無理やり座らされてしまった。そして、その時に彼女のやわらかい感触と共に甘い匂いがして……
息子がおきてしまった。
やばい、今立ったらとても元気だというのがばれしまう。
「うふふ、やっと落ち着いてくれて嬉しいです」
いや、下半身は全然落ち着いていないんですけどね!! 俺はヤンデレ美少女に貞操を誓っているが、男子高校生でもある。こんな状況で平静でいられるか。
「雪乃ちゃんはちゃんと甘えましたか? 最近素直になれないって悩んでいたみたいんだんですよ」
「……そういうことだったのか……」
最近の雪乃は甘えつつもどこかツンツンとしていた。だけど、あんな風に素直に甘えてきたのはいつぶりだろうか? そして、その悩みを想に相談していたのだろう。だから、あいつはこんな風に彼女にも懐いたのかもしれないな。
「ああ。久々に素直に雪乃に甘えてもらえて俺も嬉しかったよ。」
「うふふ、それはよかったです。いろいろとおぜん立てした甲斐がありました」
まるで聖女の様に嬉しそうに想がほほ笑む。今回の食事会は雪乃が素直に甘えるために企画されたのかもしれない。今日の雪乃はどこか頑張っているように見えた。想と二人でいたのも彼女に励まされていたのかもしれない。
いつものように二人だったら雪乃はあんな風に素直にはなれなかっただろう。お姉ちゃんがいたらこんな感じかな? などと想を見て思ってしまう。
あれ、だけど、俺がもしも寝落ちしなければこんなことにはならなかったのでは?
「では、次は私の番ですね」
「え?」
相も変わらず俺の腕を握っている想の右手には先ほどシャンプーの入っている容器が握りしめられていた。
「今度は私が春人を甘やす番ですよ。頭を洗ってあげます。かゆいところがあったら言ってくださいね」
「ちょっと想? なにこれ、体動かないんだけど!? 合気道ってやばすぎない?」
「もう、春人、暴れないでください。美容室で頭を洗ってもらうときはおとなしくしているでしょう?」
「美容室は裸じゃないからな!! って、やばっ。柔らかい!!」
そうして、俺は時々彼女の胸の柔らかい感触が当たるのに必死に耐えながら頭を洗ってもらうのだった。
鏡で見えた想の瞳は本当に幸せそうだったけど、なぜかからめとられるように蠱惑的な雰囲気をしており、なぜか、俺はどきりとしたのだった。
「……こんな時間がずっと続けばいいのに……」
お風呂から出て、雪乃と想に挟まれて寝ていた俺だったが……(お泊りなら同じ部屋で雑魚寝は基本だそうで多数決で負けた)思ったよりか疲れていたのかすぐに眠りについたのだが……
「ううん……」
「うー、春兄……私とずっと一緒……」
目を覚ますと雪乃が俺の胸元ですーすーと可愛らしい寝息をたてている。なんだがエッチな小説の事後っぽいがもちろんそんなことはない。
義妹だしな。でも……彼女がずっと俺のことをおもうヤンデレ美少女だったら……そう思うと変な気持ちになってしまう。
「のどが渇いたな……」
俺は起き上がろうとして……隣で寝ていたはずの想がいないことに気づく。なんだろう。俺は不思議な胸騒ぎがして、部屋を出るとそこには一人の女神がいた。
「春人……?」
窓からさす月明かりを背後に飲み物を飲んでいる想はどこか神秘的で、元々の美しさもあって、なんとも儚げだった。
「今日は一緒に遊んでくれてありがとうございます。まるで本当に家族になったみたいで……とっても楽しい時間でした」
家族か……想の家族はどうしているのだろうか? なぜ彼女はここで一人で暮らしているのだろうか?
「春人……なぜ私が両親と一緒に暮らしていないか聞いてくれますか?」
俺の表情から考えていることを読み取ったのか、想は美しい顔に瞳を爛々と輝かせてそういった。
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