第20話 ヤンデレ包囲網
時は少しさかのぼる。雪村雪乃は近くのドトールで、自称白金想のかつての親友とやらの話を聞いていた。
「なるほど……彼女とは幼馴染だったが、少し疎遠になったら、すごい執着してきたと……」
「ええ、そうよ……あれは執着なんてものではないわ……ストーカー行為よ!!だって、おかしいでしょう? 誰にも言っていないのに私が出かける場所にいて、一緒にいこうとするし、私がドーナッツを食べたいなって自分の部屋で独り言をつぶやいただけなのに、なぜかあの子はそのことを知っていて、翌日には一緒に行こうって誘ってくるのよ。ありえないわ!!」
よっぽどうっぷんがたまっていたのか美咲からはどんどん出てくる。想の奇行ともいえる行動が……その話を聞きながら雪乃は冷静に分析していた。
おそらくは盗聴器と発信器を仕掛けていたんでしょうね。相手のことが知りたいというのは気持ちは私もよくわかりますし……
現に雪乃も春人に発信器はつけている。最初は盗聴器もつけていたのだか、すぐにばれてしまったらしく、わざわざエッチな動画を大音量で聞かされたのでそれ以後は外すようにしたのだ。
「なるほど……いわば佐々木先輩は白金先輩の元カノというわけですね」
「元カノ!? 確かに女子中ではそういう関係の人もいたけど私とあの子は違うわよ!?」
雪乃の言葉になにを想像したのか顔を真っ赤にする美咲。だけど、そんな反応は正直どうでもよかった。
白金先輩は……私の求めるヤンデレかもしれませんね……ならば協力できるかもしれません。たった一人の人間にこれだけ固執できるなら……そして、兄ならばこの程度の狂気は許容できるだろう。
「ねえ、あなた……なんでそんな風に笑っているの? あなたのお兄さんがやばい女に付きまとわれているのよ? 心配じゃないの?」
「おや……笑っていましたか?」
指摘され窓に反射した自分の顔を見ると本当に楽しそうな笑みを浮かべていたことに気づき慌ててポーカーフェイスを心がける。
「いろいろとお話をきかせていただいてありがとうございます。兄には気を付けるように伝えておきますね」
「え、ええ……」
これからのことを考えるといてもたってもいられなくなり、美咲が困惑しているのもよそに席を立ちあがる。
ああ、だけど……彼女は善意で行動してくれたのだ。そして、彼女の意図した方向とは違うだろうが、雪乃を悩みを解決に導いてくれたことには間違いはないお礼はすべきだろう。
「それと、白金先輩からもらったものは捨てた方がよいと思いますよ。まあ、もう彼女はあなたには興味はないかもしれませんが……」
「え……ええ……?」
おそらく盗聴器や発信器が仕掛けられているから……とまではさすがに言えずカフェをでて自宅へと向かう。春人の部屋を見ると電気がついているので、想もすでに帰宅しているだろう。
にやりと笑うと雪乃はそのまま自分の部屋へと戻り、春人の部屋に仕掛けられていたのを回収した盗聴器のスイッチを入れて声をあげる。
「春兄の件で話があります。近くのド〇ールに19時に待ち合わせをしましょう」
そう一方的に伝えて、盗聴器の電源を切る。もちろん回答はないが……彼女は来るだろう。雪乃はそう確信したのだった。
「うふふ、雪乃ちゃんからお茶のお誘いなんて嬉しいです」
レースのあしらわれた可愛らしいワンピースを着た想がニコニコと座っているのを見て思わず絵になるな……などと思ってしまう。特に彼女の豊かすぎる胸元を見てちょっと負けた気持ちになる。
私服を見るのは初めてだが彼女の柔らかい雰囲気にあっており、こんな人にやさしくされたら普通の男性ならばころりといってしまうのも無理はないと思う。
まあ、春兄には通じないようですが……
彼の鈍感さ……というよりも自分が愛されないという思い込みの強さは雪乃が人一倍知っていた。そのために自分はいろいろと可愛く見えるようにとか努力をしてきているのである。
おかげでニ大美少女などと呼ばれるようにまでなったが春兄に認められなければ意味はないのだ。
「どうしましたか……?」
「いえ、ちょっと考え事をしていました。それで……ご質問ですが、白金先輩は兄に好意を抱いているということでよいでしょうか?」
「はい、大好きです。義理の妹である雪乃ちゃんもそうでしょう?」
まるで、人は呼吸をしなければ生きていけないみたいな当たり前のことを言うかのように恥じらいもなく、躊躇もなく想は答える。
そして、先ほどと同様の笑みを浮かべているのに彼女の瞳は妖しく輝いており、場の空気が一瞬にしてかわっていく。その重さに可愛らしい彼女をにやにやと見ていた一般客たちが席を立っていく。
そんな中雪乃は……
「ふふふ、いいですね。私と同じ……私以上に重い瞳です。あなたのような人とならば兄を正気に戻せるかもしれません」
「春人を……正気に……ですか?」
にやりと笑う雪乃に対して、想が首をかしげる。春人といつの間にか呼び捨てで呼んでいることにモヤっとしたが今は抑えるべきだろう。
「はい……春兄のトラウマを払しょくさせて、恋愛に興味を持ってもらうんです」
「それは……彼の名字があなたと違うことが関係しているのでしょうか?」
彼女も春人の歪みに気づいていたのだろう。流石というべきである。
「……そのことに関しては私から言ってことではありません。春兄に直接聞いてください。今のあなたならば話してくれると思いますよ」
「確かにそうですね……。それで……雪乃ちゃんは私に何をしてほしいのでしょうか?」
「春兄にヤンデレのような好意を見せ続けてほしいんです。ようは今と一緒で構いません。私はあなたの妨害を行いませんし、なんなら盗聴器もつけなおしましょう。私も頑張って好意を見せて……春兄に自信を持ってもらおうと思います」
恥ずかしさに耐えながらも好意という言葉を口にする雪乃だったが、予想外にも想が首を横に振る。
「それでは足りないと思います。雪乃ちゃんの許可も出ましたし、これから本気で仲良くなる努力をしようと思います。それともう一つ……」
あれでまだ本気でなかったのかと目を見開く雪乃に想がやさしく微笑む。
「せっかく同じ人を好きになったんです。よかったら協力しませんか? ほかの女では嫌ですが……彼をずっと見守ってきた雪乃ちゃんとなら春人の好意を共有したいなっておもうんです。それこそ家族みたいに……」
「協力……ですか?」
予想外の言葉に困惑する雪乃に想はさらに言葉を重ねる。
「私ね……春人も欲しいですけど、雪乃ちゃんみたいな可愛い妹もほしかったんですよ。だから仲良くしてくれると嬉しいです」
そうして、雪乃と想によるヤンデレ包囲網が作られたのだった。
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