第14話 白金さんの過去

 学校で本の整理をしていたら閉じ込められてしまった俺と白金さん。スマホも別室においていってしまった。さあ、どうなるか!!


 いや、どうなるかじゃないんだよな。ちょっと不安になってきたな……


 と脳内でノリツッコミをしていると俺の手が暖かいものに包まれる。



「白金さん……?」

「安心院君が不安そうな顔をしていたのでこうしたら元気が出るかもって思ったんですが迷惑でしたか?」



 ふわりと甘い匂いがしたと思うと、俺の不安を見透かしたように優しい笑みを浮かべた白金さんが俺の手を握ってくれていたのだ。



「いやいや、そんなことないって、嬉しいけど、密室で男にはこんなことはやらない方がいいよ。その……勘違いしちゃうからさ」

「もう……私は安心院君だからこうしているんですよ。ほかの男の人になんて絶対しません」



 白金さんが不満そうに頬をぷくーーっと膨らます。美少女がやると怒っているはずなのにとても可愛らしく感じるから不思議だ。



「そっか……ありがとう……」

「えへへ、わかってくれたらうれしいです」



 そして、俺も男子高校生なわけでそんな可愛らしい少女と二人っきりなせいかちょっとドキドキしているまう。


 彼女はヤンデレでは……だれよりも一途なヤンデレではないというのに……



 彼女のぬくもりを感じながら、ちがうことを考えようとして……そういえば白金さんははじめて会った時も閉じ込められていたなってことを思い出す。

 深くは聞かなかったが彼女にいったい何がおきたのだろうか? ふと視線をおくると白金さんと目が合った。



「はじめて会った時も閉じ込められていたなって思っていますね」

「なんでわかるのさ!! あ、別に話さなくて大丈夫だからね」



 俺が慌ててごまかそうとするが、白金さんはじっと俺を見つめる。その瞳はどこか蠱惑的で魅力的で、なぜか俺は視線を離せずにいて……

 何かにからめとられるような気を感じながら、彼女が形の良い唇を開くのを見つめることしかできなかった。



「私ね……人との距離をとるのがおかしいって言われるんです。聞いてくれますか? 私とあの子の……美咲ちゃんの話を……」



 そうして、俺は彼女に何が起きたのかをきくのだった。






「私と美咲ちゃんは小学校からずっと一緒の幼馴染でした……子供のころはどこに行くのも何をするのも一緒で、まるで姉妹みたいなんて言われていました」



 白金さんは思い出をかみしめるようにして、窓を向いて語り始めた。おそらく美咲ちゃんとやらが、俺がはじめて白金さんに出会った時にすれ違った少女なのだろう。

 

 だけど、あの時の少女の表情に浮かんでいたのは恐怖だった。


 いったい何があったのだろうか? と気にはなっていたものの聞けなかったのだ。



「偶然にも中学二年生までずっと同じクラスだったんです。だけど、中学三年生になってから私たちの関係は変わってしまいました。美咲ちゃんとクラスが別れて、それぞれにお友達ができたんです。ですが……私は美咲ちゃんといる方がたのしかった……だから、休み時間や、お昼休みには美咲ちゃんのクラスに遊びに行っていたんです。最初は私だけと話してくれていた美咲ちゃんですが、やがて、クラスメイトと一緒にいたいから、学校ではあんまり構えないと言われてしまって……」



 白金さんはつらそうな顔でうつむいた。新しい環境に行くと、新しい友人たちの方に夢中になってしまう。よくある話と言えばそうかもしれないが、俺たちのような学校での人間関係がすべての学生にとっては大きな問題だ。

 そして、別にどちらが悪いというわけではないのがまた悲しい。それに美咲ちゃんとやらもクラスでの生活を大事にしていただけで白金さんをないがしろにしたわけではないのだろう。



「それはつらかったね……」

「はい、確かにつらかったです。だけど、もっとつらかったのは、永遠だとおもっていた私と美咲ちゃんの仲がたかがクラスが別れたくらいで、亀裂が入るようなものだったということなんです。私はどうしても信じたくなかったんです。だからでしょうか……彼女との友情を感じるために色々なことをやったのです」



 顔を上げた彼女の目には悲痛な様子はもはやなく、どこかハイライトの消えた目で、笑みを浮かべながら語る。



「放課後は前と同じように遊んでいましたが、不安になった私はまずはメッセージアプリで連絡回数を増やしました。そして、彼女が違う人と遊ぶって聞いたときはつい偶然を装い遭遇して一緒に遊んだりと、色々なことをやってしまったのです。それが続くと……美咲ちゃんには『気持ち悪い』と言われてしまったんです。だけど、友達だったら私の不安な気持ちを理解してくれてもいいと思いませんか?」

「ああ、そうだね……」



 徐々に徐々にボルテージの上がっていく白金さんの言葉を聞いて、俺は頷くことしかできなかった。なぜだろう、頬をつーーと汗がしたたり落ちていく。



「それで……はじめて安心院君と出会った時に、戻ります。彼女が言ったんです『高校でも仲良くしてほしいならあなたの本気を見たいから、私がいいって言うまで、あの廃墟にいて』と……なので、二日ほどずっとあそこで待っていたんです。ちゃんと彼女に逃げないという証拠として縄でしばられたままで……」

「二日もだって……」



 白金さんの言葉を聞いて俺の中でとある感情が膨れ上がっていくのがわかる。その感情が彼女にばれないようにと必死におさえつける。



「はい、そんな中、安心院君が助けてくれて本当にうれしかったんです。しかも見ず知らずの私を命の危機があったにもかかわらず助けてくれて……」



 白金さんの瞳にハイライトが戻り、その代わりとでもいうように瞳に熱を帯びていくような錯覚を覚える。


 もちろん、その視線の先は俺だ。


 

 美少女である彼女にどこか狂気じみた視線を送られるのはとても心地よく、俺もつい見返してしまう。



「……」

「……」



 そして、少しの間無言で見つめあっていると白金さんが握っている手に力を込めて俺を引張ろうとして……

 ドアが乱暴に開けられる。



「春兄!! 大丈夫!? 連絡はつかないし、図書委員なのに図書館にいなかったから、何か危険な目にあったんじゃないかと……」



 入ってきたのは雪乃だった。俺の顔を見て安堵の吐息を漏らした彼女だったが、白金さんと、つながっている俺たちの手を見てすぅーっと目が細くなる。



「ああ、なるほど……そういうことね?」

「いや、雪乃これはだな。別にいちゃついていたわけじゅなくて、単にとじこめられて……」

「ええ、わかっているわ。春兄……やってくれましたね。白金先輩」

「うふふ、閉じ込められて心細かったので手をつないでいたんです。安心院くんのおかげで楽しい時間を過ごせましたよ」



 なんだろう、誤解を解こうとする俺をよそに二人は以心伝心とばかりに笑いあう。あれ、これってもしかして、男子には通じないガールズトークってやつだろうか?



「いつまでも手をつないでいるんですか!! もう、助かったんですからいいでしょう?」

「おい、雪乃!?」



 強引に俺と白金さんのてをほどくと雪乃がそのまま引っ張っていく。だけど、俺は安堵していた。だって、俺の本心が白金さんにばれないか不安だったからだ……



 だって、おかしいだろう? 彼女の悲しいはずの打ち明け話を聞いて、もしかしたらヤンデレかもしれないって興奮していたなんて……



 ★★



 私は雪乃ちゃんにつれられていく安心院君後姿をみつめながら、感情の高ぶりを隠すのに必死だった。



 私のくだらない思い出話を安心院君は最後まで聞いてくれた。そして、私は美咲ちゃんに感謝している。だって、彼女のおかげで私は安心院君に出会えたのだ。



 私だって馬鹿ではない。自分の感情が少しだけ人より重いことくらいは理解している。



 私の重い想いを聞いて引くどころか、まるで宝物でも見つけたかのように嬉しそうな表情をしてくれる彼と出会えたのだから……



「安心院君……今まで遠慮していましたが、私……本気であなたを愛していいんですよね?」



 彼とつないでいた手が熱く私の感情を昂らせるのだった。







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それではまた明日の更新で

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