第13話 白金さんと密室で…
キーンコーンカーンコーンと、昼休みのチャイムが鳴り、俺は体を伸ばす。退屈な授業も終わり、いつもならばこのまま藤村とだべりながらお弁当を食べるのだが今日は違う。なぜなら……
「安心院君、図書館に行きましょうか?」
「ああ、そうだね。それにしても当番の日が一緒なんてすごい偶然だなぁ」
「うふふ、私はここに来たばかりであまり知り合いがいませんからね、先生が気を遣ってくれたんだと思います」
隣の席の白金さんが声をかけてくれる。そう……今日は図書委員のお昼当番なのである。通常ならば完全なランダムで、決まるのだが、編入生で知り合いの少ない白金さんのお願いを聞いてくれたようだ。
ちなみに図書館の司書さんはかなり変人で、人の心何て無視するタイプだと思ったのだが……
「あとは……ちょっと面白い本が実家にあったのでそれを見せると約束したので、優しくしてくれたのかもしれません」
「それだよ、それ。買収っていうんだよ。いけないんだー」
「人聞きの悪いことを言わないでくださいよ。だって、安心院君といると安心するんですもん」
冗談半分にからかうとそんなことを少しすねたように上目遣いで白金さんが唇を尖らせる。くっそ、かわいいな。おい。これでヤンデレだったら告白しちゃうレベルだぜ。
まあ、常識的に考えてたかが本で買収されるはずはないので、司書さんが珍しく気を遣ったのだろう。
「最近読んだのですが、この小説のヒロインも素敵なんですよ。一度助けられたことを恩に感じて、ずーっと主人公のことを想う姿に共感できて……」
「ああ、そうそう。最後がすごかったよねー。結局主人公が義妹と結ばれそうになるから監禁しちゃうんだよね。これも愛の形だよなぁ……」
事前に連絡をもらっていたこともあり、彼女に作ってもらったお弁当を食べる。白金さん曰く一人も二人も変わらないらしい。
そして、偶然にも今日もまた俺の好物である豚の角煮が入っている。白金さんにはとくに言った覚えはないのでたまたまだろうがこういうのはうれしい。
それに……他人が作ったご飯を食べるというのはうれしいものだ。
そういえばあの人は、父さんが死んでからはめったに料理を作ってくれなかったなぁ……
なんて昔のことを思い出してしまう。マックやコンビニ弁当もまずいわけではなかったが、やはり手作りというのは心が温かくなる気がする。
だからこそ、雪乃には頑張って朝ご飯と晩御飯を作っているのだが……
「おふくろの味ってやつなのかな……」
「安心院君……?」
思わず気恥ずかしいことをつぶやいてしまい聞かれたなかったと安堵しながら誤魔化すように食事に集中する。
白金さんは確かに面倒見がいいが、同級生である。お母さん扱いは失礼すぎる。
「ごめんごめん、なんでもないよ」
「そうですか……でも、寂しかったら私のことをママって呼んでくれてもいいですよ?」
「え……?」
俺をからかうように笑う白金さんにすべて聞かれていたと気づき俺は顔が真っ赤になっていくのに感じる。
くっそ恥ずかしいな、おい。
「うう……」
「うふふ、安心院君のお母さんにはなれないかもしれませんが、甘えてくれてもいいんですよ?」
そういって白金さんは抱き着しめてあげるとばかりに両腕を広げるが、さすがに抱き着いて甘えるわけにはいかないい。母性の象徴とばかりにその存在を主張する胸元に思わず視線がいってしまうが、かろうじで正気を保つ。
「さすがにそれはまずいでしょ……俺だって男なんだぜ」
「もう、遠慮しなくていいのに……」
なんで白金さんは不満そうなんだろうか? 女子と同じノリなのかもしれないがこのままだとまずくない?
そして、その雰囲気を壊したのは一人の生徒だった。
「あの……いちゃついているところ悪いんですが本を借りたいんですが……?」
本を借りようとして声をかけるタイミングを計っていたのか、少し不機嫌そうである。俺と白金さんはお互い顔を赤くして、本の貸し出しをするのだった。
「安心院君……抱きしめたいです……あなたを感じたいです」
仕事で忙しい俺は白金さんがなにをつぶやいているのかよく聞こえなかった。
図書委員の仕事は昼休みだけではなく放課後もある。というわけで俺と白金さんは一緒になって、本の整理をしていた。
本来は司書の仕事のはずだが、なぜか今日に限って忙しいらしく俺たちが頼まれたのである。
「えーと……この本はと……」
「あ、ありましたよ、安心院君」
まるで俺の思考を読んでいるかのように、白金さんが俺の探している本を見つけてくれる。すごいな……どうやっているんだろう。雪乃といい俺って考えていることが顔に出やすいんだろうか……
そんな感じで貸し出し希望の本を書庫から取り出している俺たちが仕事に
ガチャン……
という音が扉のほうから聞こえてきた。そう、まるで鍵を閉めたような……そんな音である。
「今の音は何でしょう……?」
「なんか無茶苦茶嫌な予感がするな……」
白金さんと顔を見合わせた後に、俺は扉へと歩いてきてドアノブを回そうとするが、非情にもガチャリという音がするだけだった。
「うっそだろ、おい!! こんな漫画みたいなことがあるかよ!!」
「確かにラノベでありそうな状況ですね……ちょっと楽しいです」
一瞬パニックなりそうになったが、俺とは対照的に落ち着いている白金さんを見て、落ち着いてきた。今は春だし、気温も問題ない。まだ学校にたくさん人いる。それにスマホだって……
「ああ、スマホは図書館で充電してたぁぁぁ!!」
「すいません、私が余計なことを言ったばっかりに……」
「いや、こんなことになるなんてだれもわからないんだから仕方ないって!!」
俺はしょぼんとする白金さんをあわてて励ます。そう、彼女の提案でこっそりと、図書館のコンセントを使い二人ともスマホの充電をしていたのである。
とはいえ、こうなるとちょっと不安になってきたな……
偶然? 密室に閉じ込められたら二人はどうなってしまうのか?
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