第11話 雪乃と春人

「こんなもんかな?」



 部屋に置いてあるエッチな本を隠し軽く掃除した俺はスマホをいじりながら一息つく。あいつが小さいときはよく一緒に寝ていたが、中学二年生あたりからはそういうことになかったので久々だ。

 コンコンっと規則正しいノックの音ともに扉が開く。



「失礼するわね、義兄さん」

「ああ……ってお前なんでそんな恰好してんの?」



 思わず驚きの声を上げるのも無理はないだろう。やってきた雪乃は胸元が大きく開かれたレースの可愛らしいネグリジェを身に着けてきたのだから……



「何言っているの?私はいつもこんな感じよ」

「嘘だぁー、いつもはパンダの着ぐるみみたいな可愛い奴じゃん」



 なんだかんだ恥ずかしいのか、すました顔をしつつもその顔は真っ赤である。ちょっとセクシーな普段とは違う雪乃を見て俺は思う。



「お前も大きくなったなぁ……」

「なんで親目線なのよ……」

「いや、兄目線だけど……」

「もう、そういうことじゃないの!! やっぱり胸かしら……」



 なぜかしょぼんとした顔をして自分の胸元を雪乃が見つめているが、今「大丈夫、貧乳はステータスだよ」って言ったらぶち殺されるのはわかった。

 


「まあ、そんなことはともかく明日も学校だしそろそろ寝ようぜ」

「ええ……そうね……」



 俺がベットに横になると、当たり前だというように雪乃がぴったりと抱き着いてきた。甘い匂いと柔らかい感触が襲ってくる。



「おい、雪乃…流石にくっつきすぎじゃないか?」

「昔はよくこうしてたじゃない。それとも義妹の私を異性としてみているのかしら?」



 近すぎる距離に思わず注意すると、雪乃がからかうように、だけどどこか嬉しそうに笑った。

 確かに俺も義理とはいえ兄だし、こういう風に抱き着きながら一緒に寝ることは昔からあったものだ。いちいち動揺していたらダメだろう。



「確かここに……」



 俺はいつの日かヤンデレに監禁されて規制事実をつくられそうになった時用に準備していた睡眠薬を取り出して眠ることにする。しかも副作用で一時的に性欲がなくなるのである。やっぱりそういうことは付き合ってからしたいからね。備えあれば憂いなしである。



「じゃあ、おやすみ……」

「ちょっと春兄……!?」



 今日はいろいろあったからか、薬の効果がやばすぎたのか俺はあっさりと眠りにつくのだった。


★★


「本当にあっさりと寝ちゃったわね……」



 私は隣で、すやすやと気持ちよさそうに寝ている春人を見て恨めしそうにぼやく。これでも間違いがおきるようにと頑張ったのだ。

 お風呂に入ったときは何があっても良いように綺麗にして、ちょっと香水なんてつけたりして……パジャマだっていつものではなく、お年玉で買ったちょっと背伸びして買った露出の高いフリフリの可愛らしいネグリジェをきて、抱き着いたりしたのだが……効果は一切なく、春人は爆睡してしまった。

 それに引き換え彼の温かさをこの身に感じている雪乃はとてもではないが眠れない。むしろ体の奥が熱くなってしまってそれどころではない。



「春兄は気付いていないみたいだけど、私はあなたのことを兄と思ったことはないわ。ずっと異性として好きなのよ」



 一度寝たら起きないと知っているので今ならば本音が言える。想いを告げないのは今のままでは彼とは結ばれないだろうし、自分の両親に恩を感じている春人のことだ。この気持ちに気づいたら距離をとるのがわかるからである。



「昔っから優しくて……寂しがり屋の私を甘やかしてくれたものね……でも、知ってるかしら? 私が甘えるのはあなただけなのよ」



 自分と春人は実際は兄弟ではなく親戚関係にあたる。出張の多い雪乃の両親と春人の母親は仲が良く、しょっちゅう預かってもらっておりその時によく春人の面倒を見てもらったのである。

 そして、私は春人に恋をした。思えばそれが初恋だったのだと思う。両親と会えなかったのは寂しかったけど、春人に会えるのはとても嬉しかったのを覚えている。だけど、そんな日常は私が小学生の高学年の時に終わりを告げる。

 春人の母親が、男と一緒に春人を捨てて行方不明になったのである。彼女はごく普通の大人の様に……息子を捨てて男と一緒になるような薄情な人間には見えなかったが……きっと私や春人も知らない物語があったのだろう。そして、父を亡くしており、天涯孤独になった春人はわが家に引き取られることになった。

 だけど、その時の春人は変わってしまっていた。表面上は変わっていないが、自分を愛する人なんていないと思い込み、そして、永遠の愛を渇望するようになってしまったのだ。

 それが彼のヤンデレへの憧憬に至ったのだと思う。



「私の愛だけでは届かないのでしょうね……」



 心を許して眠っている彼の頬に口づけをして、寂しく思う。彼へは何度も遠回しに愛をささやいているが効果はまるでない。

 だから、思うのだ。もしも……もしも、私と同じくらい彼を思って病んでくれるような人がいれば彼が再び人に恋をするのではないかと……

 そう思った時に白金の顔が一瞬浮かんで首を大きく振る。



 だめよ、彼女の気持ちがどれくらい強いかなんてまだわからないし……それに一番最初に春兄に愛してもらうのは私なんですから。



「んっ……!?」



 そうして彼の手をとって自分の胸元へと誘うと、薄い生地の上から彼の温かさを感じ思わずなまめかしい声があふれてしまった。


 何とかして春人に自分は絶対彼を裏切らないくらいの好意を持っていると理解してもらわないと……私はそうおもいながら春人の手の温かさに身をゆだねるのだった。








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それではまた明日の更新で







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