第10話 雪乃のドキドキクッキング

今日も学校が終わり久々に藤村と遊んで(昼の貸しがあるのでおごらせた)から帰ると、家の方から煙が上がっているのが見えてきた。


 

 え? ちょっと待って? 火事かよ!! 嘘だろ?



 玄関を乱暴に開けて大声で叫ぶ。



「雪乃大丈夫かーー!!」

「ごほごほ……大丈夫。義兄さん、ちょっと焦がしちゃっただけよ」



 煙がもくもくとあふれる中うっすらと見えたのは可愛らしいパンダがプリントされたエプロンに煙の上がっているフライパンをもっている涙目の雪乃だった。



 火力の調整をミスったな……慣れないことをするから……



 俺が苦笑しながら窓をかえて換気していると、雪乃はフライパンの中にある黒焦げのハンバーグらしきものを見てしょぼんとしていた。



「お前中火じゃなくて強火でやったろ?」

「うう……だって、義兄さんがもう帰ってくるって連絡来ていたから、おなかをすかせてるだろうなって思って急がなかきゃって思ったんのよ……」

「強火にすれば早く焼けるわけじゃないからな……まあ、初心者がやりがちなことだよな……」



 俺も料理をやり始めたときは火力の調整を失敗してしまったこともある。普段雪乃は料理をしないし、実は不器用なの所もあるので、俺が帰るタイミングにまにあわせようと急いでいててんぱってしまったのだろう。

 


「続きはお兄ちゃんがやってやろう。雪乃もおなかすいてるだろ?」

「だけど……あっ」



 反論しようとした雪乃のおなかからくぅーーという可愛らしい音が鳴り響いた。少しくらいつまみ食いをしてもよかったのに、どうやら一緒に食べるために我慢していてくれたらしい。

 顔を真っ赤にする雪乃の頭をなでてやる。



「じゃあ、雪乃はコーンスープを作っていてくれ、俺はハンバーグの続きをやるからさ」

「うう……こんなのお湯をいれるだけじゃない……」



 少しすねた顔でインスタントスープの準備をする雪乃を見ながら俺はさっとフライパンを洗って、調理をはじめる。

 とはいえいびつではあるがハンバーグの種はもう雪乃がつくってくれているので焼くだけだ。雪乃と一緒に晩御飯の準備をするのだった。



「義兄さん……こんな黒焦げ無理して食べなくていいのよ」



 雪乃の言う通り俺の皿には焦げたハンバーグと普通のハンバーグがひとつずつおかれていた。そして焦げている方をナイフで切って口に入れる。



「せっかく、かわいい義妹が作ってくれたんだ。残すわけにはいかないさ。それに焦げているのは表面だけだから大丈夫だよ」

「もう、義兄さんってば……そういうことをするんだから……」



 こげの苦みとじゃりっという食感こそ気になるが、食べれないわけではない。俺が口にするのを見ていた雪乃は大げさなため息をつきつつも、どこか嬉しそうである。



「だけど、義兄さんだけに苦行を味合わせるわけにもいかないわ。私も責任もって半分は食べるわね」

「いや、でもこれは……」

「ふぅん、私が作ったハンバーグは他人には食べさせられないようなものだと言いたいのかしら?」

「わかったよ……」



 雪乃の言葉に俺は降参とばかりに半分に切って彼女の皿にのせてやる。彼女はそのまま澄ました顔で食べるも、一瞬顔が歪む。

 まあ、苦いからな……



「それにしても、なんでいきなり料理なんて始めたんだ?」

「それは……だから……よ」

「え、なんだって?」



 これは難聴系主人公というわけではなく本当に聞こえなかったのである。だって、むっちゃ小声だったからだ。



「春兄が白金先輩のお弁当を食べて嬉しそうにしていたから嫉妬したのよ!! ダメですか!!」



 今度は無茶苦茶大きな声でいってきた。それにしても嫉妬か……本当にこいつはかわいいな。



「あれは単なる学校案内したことに対するお礼だよ。白金さんは無茶苦茶美人だし、俺に好意を持っているなんてことはないから安心しろって」



 ゆっくりと言い聞かせるように雪乃の頭を撫でてやるととろけるような笑顔を浮かべる。



「それに俺は雪乃に甘えてもらえてうれしいんだよ。だから無理をしなくていいんだって」

「もう、春兄はすぐに私を甘やかす……」



 そういって唇を尖らすがまんざらでもない顔である。元々雪乃は甘えん坊である。最近あんまり構っていなかったしストレスがたまっていたのだろうなと思っていた時だった。

 すぅーっと目が細くなりハイライトが消える。



「ですが、あの女性とご飯を食べて楽しそうにしてたわよね。それにすごい近かったけど……あの距離でただの友達とは思えないわよ……」

「いや、白金さんは女子校だったから異性との距離感がおかしんだよ」

「ふーん、だけど……あの女性が近づいたときにデレデレしてたわよね? いい匂いだーーとか思っていたんじゃないのかしら?」



 すげえな、こいつ。俺の心が読めるのか? まるで、浮気現場をおさえられた間男になった気分である。だが、白金さんとはただの友人で、雪乃は妹だ。そんな修羅場にはなったりしない。



「いいから、そんな目をしているともったいないぞ。せっかく可愛いんだからさ」



 雪乃のほっぺたをぷにぷにとして正気に戻してやると、一瞬抵抗されるがすぐに大人しくなる。なんだかんだこうされるのが好きらしい。



「もう、私が可愛いって言われたらすぐに機嫌治すちょろい女だと思ってないかしら」

「でも、顔がデレデレしてるじゃん」

「うう……そんなにかわいいって言うなら、もしも私が告白したら付き合ってくれるの?」

「いや、お前はかわいいけど義妹だし、そもそも俺はヤンデレとした付き合わないって決めてるんだよ」

「もう、春兄のばか!!」



 俺の手から離れるとぷいっと機嫌悪そうに頬を膨らます。そして、大きなためいきをつくと、雪乃は無表情でとんでもないこと言った。



「私はフラれて傷ついたわ。慰謝料として今日は私と一緒に寝てくれないと許さないんだから」

「お前な……さすがに俺らも大人になったんだぞ?」

「ふーん、さっき春兄は私に甘えられてうれしいと言っていたけど嘘だったのかしら? それに春兄は義理とはいえ妹に欲情する変態さんではないんでしょう?」

「う……それは……」

「じゃあ、問題ないわね」



 得意げな雪乃に俺は自分で言った手前、うなづくしかなかった。




「こんなもんかな?」



 部屋に置いてあるエッチな本を隠し軽く掃除した俺はスマホをいじりながら一息つく。あいつが小さいときはよく一緒に寝ていたが、中学二年生あたりからはそういうことになかったので久々だ。

 コンコンっと規則正しいノックの音ともに扉が開く。



「失礼するわね、義兄さん」

「ああ……ってお前なんでそんな恰好してんの?」



 思わず驚きの声を上げるのも無理はないだろう。やってきた雪乃は胸元が大きく開かれたレースの可愛らしいネグリジェを身に着けてきたのだから……

 まるで、勝負服のようなその姿に俺は困惑するのだった。








春人の貞操はどうなるのか?




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それではまた明日の更新で

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