第8話 白金さんのお弁当

 翌朝になり、いつものように俺が登校しようと玄関から出る。ちなみに。例によって雪乃は生徒会の仕事で先に登校している。

 昨日の今日ということがあり視線を感じたので振り返ると、偶然にも登校している白金さんと目が合った。すげえな、二日連続じゃん。昨日とはちょっと時間がずれているというのに、すごい偶然だ。



「おはようございます、安心院くん。昨日はありがとうございました」

「おはよう、白金さん。こちらこそ……ありがとうね」



 満面の笑みであいさつしてくれる白金さんの顔を見て昨日甘えてしまったことを思い出して恥ずかしくなってしまい思わず顔を逸らすと……



「どうしましたか? 安心院さん」



 こちらをのぞき込むようにして可愛らしく首をかしげる白金さんと目が合った。いつの間にかまわりこまれていたようだ。この子はボスキャラかなんかかな? 

 とはいえ、彼女が普通なのだ。いつまでも恥ずかしがっていても申し訳ないだろう。



「そういえばメッセージもらったけど本当に良かったの? お弁当なんてつくってもらっちゃって……」

「はい、安心院君には色々とお世話になっていますから!! あんまり上手ではありませんが食べてくださると嬉しいです」

「いやいや、白金さんの手料理が食べられるなんてすっごい楽しみだよ」



 特に藤村とか無茶苦茶羨ましく思いそうである。それにだ……美少女との手作りお弁当とかラノベなどのイベントみたいでむっちゃ嬉しいし、誰かに料理を振舞うことはあっても振る舞われることは最近なかったので嬉しい。

 そんなことを話しながら、俺たちは学校へと向かうのだった。





 昼休みになって、ちょっと席を外している白金さんを待っていると藤村が声をかけてくる。



「なあ、安心院……今日も白金さんと一緒に登校してきたらしいけど、お前らまさか付き合ってるんじゃないよな? あんなヤンデレ要素のない清純系の女の子とお前が付き合ったら俺はお前を殺してしまうかもしれない」

「お、今のヤンデレっぽいな……ヤンデレなら男も……アリか?」

「ねえよ!! 俺は女の子が大好きなんだよ!!」



 俺のボケに藤村が突っ込みをいれ、下さらない話をかわきりにヒートアップしてく。



「俺だって、美少女と一緒に登校したいんだよ。お前は一体どんな魔法を使ったんだ!!」

「いや、単に登校コースと時間がかぶっただけだって……これで俺が学校へ向かうのを監視していたらヤンデレポイントが高くて最高なんだが……」

「いや、恐怖しかないだろ……! お前な……ラッキーみたいに言っているけど、白金さんに何人もの男が声をかけて、一緒に登校どころか連絡先すらの交換も誰もできないで撃沈しているんだぞ!! その人気はわが学校の二大美少女にすら匹敵するんだ!!」

「あー、二大美少女って確か……」

「そう、入学してから定期テストは万年一位!! スポーツもできて文武両道を地でいっている現生徒会長であり、お前の義妹ということ以外は一切欠点のない完璧美少女!! 罵られたいランキング(俺調べ)一位のクール系美少女雪村雪乃!! スポーツの天才にて、すらりとした足が魅力的な、王子様系美少女にて副会長をつとめている海堂茜の二人だ!!」

 


 そんなんあったな……そのランキングにヤンデレ美少女はいないから興味がないんだよな。ちなみに二人とも知り合いである。というか雪乃と海堂は親友だったりする。

 それにだ雪乃は全然完璧少女じゃないんだよなぁ。それどころか家ではちょっとツンツンとした甘えん坊ちゃんである。まあ、そこが可愛いんだが……



「ああー! 俺も美少女と一緒に登下校したい! それで、お弁当を作ってもらってお昼をつくってもらって『聖域』でイチャイチャしながらたべたいよー! なあ、安心院お前は裏切らないでくれよ。俺と一緒に独り身を……」

「安心院お待たせしました。お弁当を食べましょう! その……あまり人に作ったことはないので、期待しないでくださいね」

「は?」



 白金さんくっそタイミングが悪いな……藤村がポカーンとした顔で俺と白金さんを交互に見つめる。このままここにいたら面倒なところになりそうだ。



「ありがとう、白金さん。行こうか?」

「はい、藤村さんは大丈夫ですか? なにか約束してたんじゃ?」

「いや、大丈夫だよ! 気にしないで」



 俺は藤村が正気になる前に白金さんの手を握り逃げ出すのだった。




 『聖域』それは男女のカップルや、カースト上位の男女グループなどが、交流する校舎と校舎の間にある緑あふれし場所……ようするに中庭である。

 俺のような非リアには無縁だった場所である。そんななか可愛らしい花柄のシートの上で、俺は白金さんと向かいあってお弁当箱を広げていた。

 


「あれが例の編入生か……むっちゃかわいいじゃん」

「転校三日目でもうあんなに仲良しになってんのかよ、俺も声をかければよかった」

「あれって、確か雪村さんのお兄さんよね。ぱっとみ普通だけど、やっぱり何かすごいのかしら」



 周囲からは羨望や好機の視線をうけて俺は思わず肩身の狭い思いを……してなどいなかった。正直雪乃の兄をやっているとこんなのは慣れっこだ。

 羨ましそうに思っている連中に見せびらかすようにしてて美少女のお弁当を堪能することにする。



「それではどうぞ……」

「うおおお、むっちゃうまそう!!」



 少し緊張した様子の白金さんから渡されたお弁当箱を開けると、細かく丁寧に砕かれたポテトサラダに食欲をそそる香りのデミグラスソースのかかったハンバーグなど俺の好物ばかりが入っていた。

 もしも、メシマズ系お嬢様だったらどうしようと、ちょっと心配していたが杞憂だったようだ。



「うふふ、喜んでいただけて嬉しいです。よかったら食べてみてください」

「ああ、ありがとう!! 遠慮なくいただくよ」



 俺が遠慮なくハンバーグに口をつけるとソースと上質な肉の味が口の中に広がっていく。ナニコレうますぎる!! 次にポテサラを食べると口にポテトの触感と共に胡椒か何かのスパイスが良いアクセントになって楽しませてくれる。

 おそらく素材も上質なものなのだろうが、彼女の料理の腕前も一朝一夕で到達できるレベルではないのだろう。



「すっげえうまい!! 白金さんは料理が好きなの?」

「はい……いつか旦那さんができたら、絶対美味しいって言ってもらうために修行していたんです」



 照れくさそうに笑って夢を語る白銀さん。乙女チックで可愛らしい理由である。



「でも、それなのに俺がそんな努力の結晶ともいえる料理を食べていいのか? これは未来の旦那さんに向けての物じゃ……?」

「はい、むしろ安心院君に食べてほしいんです!!」

「そうなの? まあ、男性の好みを知るのは大事だよね」



 満面の笑みを浮かべている白金さんにありがたくも味見役に選ばれたことに感謝しつつ、俺は遠慮なくお弁当を食す。



「いやぁ、無茶苦茶うまかったよ。特別な調味料とか使ったの?」

「それはもう隠し味がたっぷり入ってますからね」

「え? 何が入ってるの? 参考にしたいから教えてよ」

「うふふ、秘密です……それに安心院君は真似できませんよ」



 得意げにその大きい胸をはる白金さんの瞳の色に一瞬どろりとした何かが宿ったように見えたのは気のせいだっただろうか。

 何が入っているか無茶苦茶気になるが教えてくれなさそうだ。




「あー、でも、本当にうまかった。また食べたいなぁ……」

「本当ですか、そんな風に言われたのは初めてです!! よかったら、毎日作ってきましょうか?」

「いや、さすがに毎日は申し訳ないよ……でも、これだけ美味しいもの作れるなら両親とかにも作ってあげたら喜びそう」



 それは何気ない言葉だった。俺がもう、できないからだろう。羨望を抱きながらつぶやいた言葉に白金さんの顔から表情が一瞬消える。



「いえ……両親は忙しいので食べてくれないと思います」

「ごめん……今のは踏み込みすぎたわ……」

「いえ、もう慣れていますから気にしないでください。それに……安心院君が家族になってくれてもいいんですよ」



 場の雰囲気をかえようとしてくれたのか白金さんが軽口を叩く。その様子にどこか痛々しさを感じた俺は声をかけようとして……



「安心院君、口にソースがついていますよ」



 白金さんが体をこちらによせて、レースのついている可愛らしいハンカチで、俺の口元を拭いてくれた。その時の顔がなんとも嬉しそうに……俺は彼女にされるがままにすることにした。

 ふわりと甘い香りがしてなんとも不思議な気持ちになっていた時だった。



「あの泥棒猫!! なんてことを!!」

「ちょっと雪村さん、顔出しちゃだめだって!!」

「義兄さん!! 何学校でいちゃついているのよ!! 不純異性交遊なんてダメじゃない!!」



 なぜか、不機嫌そうな雪乃と頭を抱えている藤村がいた。こいつらなんでここに……いや、藤村の場合はのぞきにきたとわかるが、雪乃がなんでここに……

 


「ちゃんと話すのは三回目ですね。改めて自己紹介を……白金想と言います。安心院君とは一緒にお弁当を食べるくらい親しい友人として仲良くさせていただいていますにゃん」

「うぐぐぐ!!」



 なんか白金さんが変な語尾でしゃべってそれを聞いた雪乃がうめき声をあげる……いきなりのことに驚いたけど、ちょっとかわいいなと思ったにゃん!!



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隠し味はなんなんでしょうね……


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それではまた明日の更新で

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