第7話 ちょっと愛の重い義妹ちゃん
白金さんと別れた俺は買い物を済ませて自宅の玄関は雪乃の革靴が置いてあるのが目に入る。どうやらあいつも入れ違いに帰ってきているようだ。白金さんが雪乃と仲良くなりたがってたし、せっかくだから二人を会わせてみたかったな。
「ただいまー」
「……」
大きな声であいさつするが、返事はない。ただの屍のようだ。いや、屍だったら困るんだけどね。今朝もなんか様子がおかしかったし、体調でも悪いのだろうか?
あいつは外では弱みをみせないから心配になる。
「こういう時はどうせ、ここにいるんだよな」
俺は冷蔵庫に買ってきたものを入れると、念のために雪乃の大好物のプリンとスプーンを片手に自室にはいる。
すると案の定ベッドの中が膨らんでいるのが目に入った。
「おーい、雪乃……ねるなら自分のベッドで寝ろって……」
「……春兄のベッドの方が落ち着くんだもの。いいじゃないの……」
布団の中からちょっとくぐもった声が返って来る。いつもの義兄さんではなく、春兄か……これは雪乃なりの合図である。
彼女は実は大の甘えん坊なのだが、外では優等生として活動しているためか、時々こうなるのである。以前何て俺の布団の匂いを嗅いで恍惚の笑みを浮かべていたし相当ストレスが溜まるのだろう。
「とりあえず、顔だせって。プリンを買ってきたからさ」
「うう……プリン……春兄ありがとう」
布団がもぞもぞと動いて、雪乃が可愛らしく首だけ出すと、形の良い口をあーんと空けるのでプリンをすくって与えると
「えへへ……美味しい」
と、満面の笑みを浮かべるのであった。しばらく、雪乃にあーんを繰り返し途中で俺も食べたりしてから話を聞くことにした。
「それで……何かあったのか?」
「うん、生徒会のことで少しもめ事があったのと……あと、泥棒猫とお話をしていたのよ…」
「泥棒……猫……?」
一瞬雪乃の目のコントラストが消える。学校に猫でも忍び込んできたのだろうか? にゃーにゃーと猫と会話していると雪乃を想像してちょっとかわいいなと思う。
「よくわからないけど、解決しそうなのか?」
「そうね、今度いろいろとお話をすることになるとは思うけど、すぐに排除できるかと……」
「排除って過激だな……俺の助けはいるか?」
「いえ……今回は私がなんとかするわ。ありがとう、春兄」
意外な返事に俺は驚く。猫を追い出すとか肉体労働はいつも俺に頼っていた雪乃も成長しているのだ。 俺が嬉しくなって雪乃の頭を撫でるととろけたような顔をして「えへへ」と可愛らしい声をもれる。
「春兄……」
「なんだ?」
「それより……今朝一緒にいた女性は誰かしら?」
もっと撫でてほしいのだろうかと、彼女の顔をのぞくと先ほどまでの幸せそうな顔から一変し、なぜか顔にも声にも感情が消えた。
なにこれ? 雪乃ったら情緒不安定すぎない?
「ああ、同じクラスの白金さんだよ。うちに編入してきたんだ。なれないからって一緒に登校したんだよ」
「ふーん……仲良く手をつないで?」
「別に手をつないでいたわけじゃないが……ああいうスキンシップは女子中の時の癖なのかもな」
「ふーん。じゃあ……先ほど家に連れ込んでいたのも白金先輩なのかしら?」
感情のない同じトーンで返事が返って来る。なにこれ、雪乃すげえな。なんでわかるんだよ? それに、昆虫みたいな目といい特技がたくさんある自慢の義妹である。
「あれ……見てたのか? さっきまで雨宿りしてたんだよ」
「いえ……春兄の布団に女の匂いがしたのと、部屋のものの配置が若干変わっていたから……」
「なんで俺の部屋の配置を覚えてんだよ……それに布団から白金さんの匂いがするわけないだろ。ちょっとしゃべっていただけだって」
「ふーん……やはり厄介ね……あの泥棒猫は……」
相も変わらず感情のない声である。というかもしも、俺にヤンデレ彼女ができて盗聴器とか仕掛けられてても気づきそうだな。こいつ……
ちょっと、あたりを見てみるが変わったものは増えていない。まあ、別に白金さんはヤンデレ美少女じゃないしな。美少女だが……
「まあ、なんか疲れているみたいだし、今日は俺に甘えるといい。何かやってほしいことあるか?」
「そうね……じゃあ、しばらく私の抱き枕になってくれるかしら。呼吸もしないでね……」
「いや、お前は俺に死ねってか?」
「うふふ、あなたが死ねばずっと私のものになるもの……」
「あ、今のヤンデレっぽくていいな。さてはお兄ちゃんの本を勝手に読んだな」
ぼそぼそと冗談を言う俺は雪乃の入っているお布団に侵入する。義妹とはいえ、最初はこういうことをするのに抵抗があったが、「兄妹なんですからこれくらい当り前よ」と説得されたせいかすっかり普通になってしまったのだ。
まあ、雪乃が普通って言うなら普通なんだろう。それに雪乃に甘えられるのは悪い気持ちではない。むしろ嬉しい。
だって、この家の居候のような俺も役に立っているって実感できるから……そんなことを思いながら俺は小さいが確かに柔らかさを感じる雪乃の胸を押し付けられ、彼女の息遣いを感じながら頭を撫でてやるのだった。
★★
春兄春兄春兄春兄春兄春兄春兄春兄春兄春兄春兄春兄!!
兄のぬくもりを感じながら、雪乃は現れたライバルに関して考えていた。断片的だが、情報を得ることはできた。この距離の詰め方からしてなかなかの強敵だと思う。
盗聴器越しに宣戦布告はしたがこれからどうなるだろうか?
「春兄は絶対に渡さないんだから!!」
一層彼をかんじれるように力強く抱きしめる彼女の目にはどこか狂気が宿っていた。
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ついにヒロインがお互いをロックオンしました。これからが修羅場だぜ
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