第4話 美少女転校生VS義妹
朝の弱い雪乃をおこしてから朝ごはんを準備し、俺はダラダラとソシャゲを楽しんでから学校へと向かう。生徒会長であり朝の会議がある彼女は登校は別々なのである。
天気予報によると夕方から雨が降るらしいけどあいつ傘持って行ったかな?
「あー、どこかにヤンデレはいないかなー」
「おはようございます、安心院君」
「うおおおお!?」
背後から声をかけられて俺は思わず大声をあげてしまった。今の独り言きかれてなかったよな? 完全にやばい人だもん。
あわてて振り向くとにこにこと笑顔がまぶしい白金さんが立っていた。この子マジで気配をかんじなかったんだけど忍者かな?
「すいません……後姿を見かけたからあいさつしたんですがご迷惑だったでしょうか?」
「違うんだ、いつもは誰にもあわないからびっくりしただけなんだよ」
「そうだったんですね、不快な思いをさせたら……と思って心配してしまいました」
白金さんはほっとその豊かな胸をおろす。美しい長髪と醸し出す気品にあるれるお嬢様オーラもあいまってなんというか神々しい。
そんな彼女を不安にさせてしまったもうしわけなさを誤魔化すように話題を変える。
「白金さんもこっちの方に住んでるんだね?」
「はい、そんな感じです。それよりも朝から安心院君とお会いできてうれしいです」
本当にすごい偶然である。たまたま隣の席になった子とたまたま同じ方向に住んでいて、登校時間もかぶるなんて……これが俺のストーカーで、ずっと待っていてくれていたっていうのならば最高なんだけど、そんな風に考えるのは白金さんに失礼だろう。
「昨日はクラスの女子に囲まれていたけど大丈夫だった? うちの学校って編入生って結構珍しいから注目されがちなんだよね」
「はい、色々と聞かれて驚きましたが、皆優しい人でしたよ。」
世間話を振りながら、俺たちは学校への足を進める。ヤンデレ美少女の彼女が欲しいからって、クラスメイトとコミュニケーションをとらないわけではないのだ。俺はヤンデレ好きだけど、常識のあるヤンデレ好きなのである。
話によると白金さんは家庭の事情で引っ越すことになりこっちの高校に編入してきたらしい。もしかして、あの廃ビルで会った女の子が関係しているんじゃ……と思ったが、さすがに聞くわけにはいかないよな……って思った時だった。
「白金さん……どうしたの?」
まるでこちらの心を見透かすように白金さんはじっと俺の目を見つめていたのである。その圧力に雪乃もこんな目をするなと思いだして苦笑する。
「うふふ、やっぱり安心院君は優しいなって思ったんです。私に気を遣って話題を変えようとしてくれましたよね」
「ああ、ばれちゃった? まあ、気にならないと言われれば嘘になるけど、つらいこと思い出す必要ないでしょ」
すごいなぁ…どうやら俺の考えていることはまるわかりらしい。雪乃も俺はすぐに表情に出るって言ってたけど、そういうことなんだろうな。
白金さんは一瞬暗い目をして、顔をふせたが、再び顔を上げたときには不思議なくらい爛々とした目でこっちを見つめてきた。
「ありがとうございます……確かに悲しかったんですけどいいんです。そのおかげで私は運命の人に出会えたんですから」
「そっか、それはよかった」
白金さんと目をが合うとなぜか何かにからめとられそうになるような感覚に襲われる。気のせいか寒気すらするくらいである。
風邪でもひいちゃったかな? 変な感じである。
そんな話をしているとようやく校門に近づいてきて同じ制服をまとった人間が増えてくる。うちの学校は中学と高校が同じ敷地内にあることもあり、人数が多いためまだ顔見知りにはあっていないが、このままでは変な噂がたってしまうかもしれない。
「じゃあ、噂になったらまずいだろうし、俺は先に行くね」
「あ、待ってください……よかったら一緒に登校してくれませんか? その……まだ学校になれていないので……」
早足で進もうとしたところを服の裾を引張られる。なんだと思うと、白金さんの顔はちょっと不安そうで……放っておいていいものか迷う。
確かに新しい環境だ。知っている人と居た方がいいのもわかる。だけど……
「せっかく新しい学校にきたのに俺とつきあっているっとか噂されたら……」
「大丈夫です!!」
「でも……」
「大丈夫です!!」
無限ループって怖くない? でも、まあ、大丈夫なら大丈夫か。なにが大丈夫かわからないけど……
「じゃあ、一緒にいこうか」
「はい、やっぱり安心院君は優しいですね!!」
そんな会話をしながら、校門へ入るとすさまじい視線を感じた。そちらを振り向くと、雪乃が感情のない目でこっちを見つめている。あいつは中学で生徒会長として朝の見回りのようなことをするかもしれないっていってたな……
だけどさ、外ではあの目は怖いからやめろって言ったのに……
「どうしました、安心院君……もしかして……あの子は恋人さんだったりしますか?」
「いや、違うって……俺に彼女はいないし……」
「本当ですか……? 嘘ついちゃ……いやですよ……?」
俺の視線に気づいたのか、白金さんが雪乃に視線をおくってからこちらをじーっと見つめてくる。あれ、この子もハイライトが消えてるんだけど、最近流行っているんだろうか? 地雷系女子みたいな感じでハイライトなし女子みたいな……
てか、裾をつかまれた手が微動だにしない。白金さんって結構パワー系お嬢様のようだ。
「本当だって、あいつはただの義妹だよ。今朝は普通だったけど、なんか機嫌悪いみたいだな……」
「ああ、なるほど……それはこれのせいかもしれませんね? 妹さんに誤解されてしまったかもしれないです。ごめんなさい」
その言葉でいつの間にか普通の目に戻った白金さんは、いまだ俺の服の袖をつかんだままだった手を見つめ、申し訳なさそうに頭を下げる。
確かにこれはぱっとみカップルがいちゃついているようにも見えるな。
「すいません、女子同士の癖でつい……」
「ああ。確かに女の子同士だと手をつないだりするよね。でも、男にこんなことしたら勘違いしちゃうぜ」
「あ……」
彼女の手を優しく振りほどくと、寂しそうな声をあげられてしまった。ちょっと罪悪感に襲われるが、クラスの連中にからかわれるし誤解されるのはお互い面倒だろう。
「ちょっと……寂しいです……」
「ごめんごめん、でも、こういうのは女子にだけやった方がいいよ。変な風に思う人もいるだろうし……」
「私は安心院君にしかしませんよ?」
白金さんはキョトンとした顔で可愛らしく首をかしげる。漫画などでありがちだが美少女がやるとすさまじい破壊力だった。
ヤンデレ好きだから我慢できた。清楚系お嬢様好きだったら我慢できなかった。
てか、それって、俺が女の子みたいってことかな? バリバリの男なんだけど……なんなら白金さんよい匂いするなって思っているくらい男なんだけど……
そんなことを考えていたら、すさまじい殺気を感じたので振り向くと、いつの間にか無表情で目からハイライトを消した雪乃が俺の方に歩いてやってきていた
「義兄さん……その女性は誰かしら? さっき手をつないでたわよね? 公共の場で何をやっているのよ」
むっちゃ早口で聞いてくるじゃん……実際は裾を掴まれていただけなのだが、遠目には手をつないでいるように見えたようだ。
なんでだろう。義妹相手なのに、二股彼氏みたいな追求されてるんだけど……
「彼女は……」
「私は安心院君の彼女の白金想といいます。よろしくお願いしますね、妹さん」
「は……?」
俺が口を開く前に白金さんが答えた。女子校ジョークってやつだろうか? こいつ嘘が苦手だからなぁっと雪乃い視線を送ると俺をじろりとまるで、研究対象を見つめる科学者のように見つめ……ふっと笑った。
「嘘ね……義兄さんの表情をみればわかるわ。私が見たことのない方なので……編入生でしょうか? 学校に不慣れなのでという口実でお人よしの義兄を頼ったという感じですね。くだらない嘘をつくのはやめた方がよいですよ、先輩」
すっげえ推理力だな。名探偵コ〇ン君みたい。俺は眠っているだけでみんなに称賛される存在になりたいものである。
ちなみに雪乃は俺意外の年上には基本的に敬語である。まじめな子だからね。
「うふふ、すいません。妹さんの反応があまりにもかわいかったのでついからかいたくなってしまったんです。今は……ただの友達ですよ。私のことはお姉ちゃんって呼んでくださっても構いません」
「ほめていただいてありがとうございます。義兄さんにはかわいい妹である私がいるので色時掛けが通じなくてすいませんね、白金先輩」
なぜか「今は」という言葉を強調する白金さんと、「白金先輩」を強調する雪乃が仲良く話している。やはり女子ってすぐに仲良くなるからすごいよな。
もう、笑顔で話し合っているし……だけど、背筋が寒いのはなんでだろう?
そんなことを思っていると遠くから「雪乃っち」と呼ぶ声が聞こえてきたため名残惜しいそうにして雪乃が去っていった。
「うふふ、かわいい妹さんですね。仲良くなれそうです!!」
「本当? あいつなんだかんだ人見知りで、友達多くないからさ。仲良くしてくれたら助かるよ。お礼と言ってはあれだけど、俺にできることならなんでもするよ」
「……なんでも……ですか?」
うれしさのあまりエロ同人の導入のようなことを言った俺の言葉を白金さんがかみしめるようにして屈り返す。その目はなぜかねっとりと俺を観察しているようで……
鼻からスパゲディを食べろとか言わないよな……と心配になってしまった。
「そうですね。では、よかったら昨日約束した放課後学校を今日お願いしてもいいでしょうか?」
「ああ、別に大丈夫だよ。」
「本当ですか、嬉しいです。安心院君はやっぱり優しいです」
白金さんが満面の笑みを浮かべて喜んでくれる。それにしても、なんかやたらと言葉に熱がこもっていたな……告白されるかと思っちゃうくらいに……まあ、告白されたことなんてないんだけど。
そんな風に約束をして、俺たちは教室に向かうのだった。なお、雪乃から、あの女の子はなんなんですか?ってむっちゃラインがきていたのはここだけの話である。
白金さん、本当に雪乃と仲良くなったのかな?
☆☆
白金想は安心院の後ろを歩きながら、妹である雪乃が去っていった中学の方をじーっと見つめていた。
「やっぱり安心院君は魅力的な方ですからね……牽制はしておきましたが……これは早めに勝負に出た方がよいかもしれませんね……」
そう言って、先ほどまで彼の裾を握っていた手を自らの頬に当てて恍惚の表情を浮かべる。その姿は何とも妖艶で……何も知らない周囲の男子生徒はおろか一部の女子生徒までが生唾を飲んだのも無理はないだろう。
「おーい、白金さん。いくよーー」
「はい、今行きますね」
先ほどまでの妖艶さはどこにいったのか安心院に呼ばれ幸せそうな笑顔で彼のあとをついていくのだった。
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