第3話 ちょっとツンツン義妹雪乃ちゃん
そうして、ホームルームが終わり放課後になる。初日というだけあってさっさと帰宅である。
「終わったーー」
「あ、安心院君、さっそく頼らせていただきたいんですが……今度学校を案内してはもらえないでしょうか?」
「べつにいいけど……せっかくだったら今日いく?」
「いえ……今日はちょっと日が悪いので……」
白金さんはなぜか窓の外に広がる空を見た。まあ、よくはわからないが別の日でも問題はない。そして、見慣れない編入生と仲良くしようするクラスの女子に囲まれていく白金さんに別れを告げて、俺は藤村たちと帰路に就くのだった。
白金さんと仲良くなれてうらやましいなどと言ってくる彼に「ふははは、うらやましかろう」と答えたりして別れると、先に帰っているであろう義妹に「ただいまー」と声をかけると少しツンツンとした返事が来る。
「もう、義兄さん遅いわよ。どこをほっつき歩いていたのよ? かわいい義妹を飢え死にさせる気なの?」
鋭い目つきに彫刻の様に綺麗な顔立ちの女の子、俺の血のつながっていない妹の安心院雪乃である。白金さんとは違う方向の美少女であり、生徒会長をやっているほど優秀で自慢の義妹である。
「藤村たちとちょっとコンビニによっていただけだって……雪乃は料理ができないからなぁ……」
「別に料理ができないわけじゃないわ。それに、他のものを食べてお義兄さんが作った料理を残すと悲しそうな顔をするから仕方なく待っていただけよ」
少しツンツンした感じなのはいつものことである。昔は甘えん坊だったのだが中学に入ってからなんかこんな風になってしまった。
俺は反抗期の妹に苦笑しながらいつものように頭を撫でようとした時だった。その手がばっとつかまれる?
「うおおお!!? なんだよ」
「義兄さん……右手からほかの女の匂いがするんだけど……本当に藤村さんと遊んで帰ったの? だれかとデートしていたんじゃ……」
さきほどまでのツンツンはどこにいったやら、雪乃がまるで昆虫のように感情のない瞳で、こちらを見つめてくる。
てか、力つよ!! マジで微動だにしないんだけど……
「はいはい、瞳のコントラスト消さないの。せっかく可愛いんだから笑顔になれって。俺がもてるわけないだろ?」
「むぐ……義兄さんやめてってば、私はもう子供じゃないんだから!!」
空いている方の手でほっぺたをぷにっとすると、雪乃は恥ずかしそうに距離をとった。そして、俺には残念ながらデートするような相手はいない。
ああ、でも……雪乃が言った右手は白金さんの触れた手である。こいつマジで匂いでわかんの? すげえな。
まあいいや、ちょっと気になることあるし聞いてみるか。
「そういえばさ……今日びっくりすることがあったんだよ。この前たまたま助けた女の子がいたってはなしたじゃん。その子がうちの高校に入学してきて隣の席だったんだよ。そんな偶然ありえなくない? この子って俺に会いたくてやってきたヤンデレな可能性が……」
「ないわね」
「いや、でもうちって中高一貫だし、わざわざ編入して俺に会いに来たって可能性は……」
「ないわね。義兄さん……ヤンデレなんてフィクションよ。いい加減大人になった方がいいと思うわ」
ばっさりと切り捨てられてしまった。お兄ちゃんちょっと悲しい。まあ、普通に考えたら単なる偶然かなぁ……
「ちなみにだけど……私が実は義兄さんのことを一途に思っているヤンデレ美少女だったらどうするのかしら?」
「何言ってんのさ、義理とは言え妹だぜ。両親に申し訳ないでしょ。それに、義妹が兄を好きなんてそれこそフィクションの世界ですって前に雪乃が言ってたじゃん」
「……そうよね……」
珍しく冗談を言う雪乃の頭を笑顔でなでるがその頬はなぜか不満そうに膨らんでいる。
「それより義兄さん、そろそろおなかがすいちゃった。ご飯が食べたいわ」
「ああ、今日はカレーの材料は買ってきたから楽しみにしていてくれ」
そんなことを話しながら、俺はキッチンに向かう。
「これは……警戒しておく必要があるわね……」
「なんか言ったか?」
「なんでもないわ、カレー楽しみにしてるから……」
小声でぼそりとつぶやいていたようだが聞こえなかったのできにしないでおくことにした。思春期は難しいなぁ……
☆☆
白金想は自室で電気もつけずに嬉しそうにほほ笑んでいた。その手には彼が落とした生徒手帳をまるで宝物のように大切そうに手に持っている。
「うふふふ、教室で見る安心院君も素敵ですね……」
学校での会話を思い出して、思わずにやけてしまう。わざわざ父に無理をいって編入してきた甲斐があったというものだ。
拾った生徒手帳から、学校を特定し、隣の席にしてもらったのである。
「それにしても……安心院君は意外と女の子が使うようなボディーソープが好きなんですね……」
今朝学校で出会った時に彼が使っているボディーソープを特定し、使った想は嬉しいそうにほほえんだ。優しい彼につつまれているようで幸せな気持ちになる。
「私も安心院君ともっと仲良くなりたいです。もっと彼のことが知りたいです、今までどんな風に過ごしていたのでしょうか、何が好きなのでしょうか? 休みの日は? 家では? どんなことをしているのでしょうか? もっともっと知って仲良くなりたいんです」
学校で彼に触れた右手を愛おしそうに頬にすりすりと当てながら想は思う。そして、その手はやがて彼女の豊かな胸元へと導かれ……体が熱くなってくる。
「うふふ、明日からの天気は夕方から雨ですか……ちょうどよいですね。明日の学校が楽しみです」
想はどこか焦点のあっていない目で、にこりと笑うのだった。その目はまるで、獲物を見つけたクモのようだった。
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