第5話 白金さんがうちにきた
そのあと教室に白金さんと一緒に入ったことを藤村に少しからかわれたこと以外は特になんの変哲のもない一日だった。
しいて言えば、俺がクラスの女子に業務連絡をするときにどこかから強い視線を感じた気がしたくらいだろうか? あわてて、振り向くと白金さんが女の子と談笑していただけなので、多分気のせいだろう。
そして、帰りのホームルームで委員会を決めていた時だった。
俺は部活をやっていないかわりに委員会などで内申点をかせぐために毎年とある委員をしているだが……
「それでは図書委員をやりたい人」
「「はい!!」」
俺と全く一緒のタイミングで声をあげた人物がいたことに驚いて思わず隣を見ると、白金さんが少し恥ずかしそうにはにかむように笑っていた。
「うふふ、とっても気が合いますね。委員会でもお願いします」
「うん、白金さんも本が好きなんだ? やっぱり文芸とか読むの?」
「そうですね、あとは海外のミステリーとか……安心院君はどういうのを読むんですか?」
さすがはお嬢様というところか、まさに上流階級の趣味は読書といった感じのセレクトである。それに引き換え俺は……
「ああ、俺はラノベばかりかな。いや、読書じゃないっていわれそうだけど……」
「そんなことはないと思いますよ。ああいう物語もとっても素敵です。それにですね……内緒ですが、私もライトノベルも読んでいるんですよ……」
すこし恥ずかしそうに顔を赤くしながらカバンから、本を取り出し、ブックカバーをめくすと可愛らしい女の子の表紙が見える『ヤンデレ好き男子とヤンデレ女子の頭脳戦』と書いてある。
がっちがっちのラノベじゃん
「イメージと違う……ってひいちゃいました?」
俺が予想外の光景に言葉を失っていると、少し不安そうな顔でラノベをしまおうとしたのであわてて答える。
「いや、そんなことないって!! むしろ親近感がわいたよ!! ラノベ好きな人あんまりいないから嬉しいよ!」
「本当ですか!! そんなこといってもらえたの初めてです、うちはこういうの結構厳しかったので……」
「マジマジ!! それに俺もその本よんだことあるんだ!! ヒロインの子が可愛いよね」
「このヒロインの子の気持ちにすごい感情移入できて……やっぱり、好きな人のことは何でも知りたいですよね!! ついつい盗聴したり、ストーキングするのも愛の形だと思いますよね!!」
「うんうん、やっぱりヤンデレっていいよね。大好きなんだよ。この前出たヤンデレヒロインのも読んだ?」
「もちろんです! こっそり主人公に発信機をつけていたのがあんなところで役に立つとは……やっぱり好きな人の居場所を常に把握するのは大事ですね!」
「安心院、白金!! 今はミーティング中だぞ!! 一応授業中なんだかれ静かにしろ!」
ヤンデレヒロイン好きという意外な共通点に盛り上がりすぎてしまい大声になってしまったようだ。俺と白金さんはばつの悪そうな顔をして謝る。
普段から適当な俺はともかく優等生の白金さんに迷惑をかけてしまったなと視線を送ると目が合う。そして、彼女は恥ずかしそうに「怒られちゃいましたね」とささやくのだった。
いや、普通にかわいいな、おい!!
放課後になり、白金さんを学校案内するために待ち合わせの図書館に向かっている最中だった。
「白金さん、一目ぼれしました。付き合ってください!!」
「申し訳ありません、私はあなたをよく知らないですし、付き合うことができません」
待ち合わせの図書館からそんな声が聞こえてきた。うわーー人が告白しているのをはじめてみた!!
それにしてもまだ学校にきて二日目だっていうのにすごい人気である。
まあ、白金さん美人だしな……雪乃もしょちゅう告白されるとか言ってたし、美少女の世界はこういうものなのかもしれない。
「てか、一回図書館から離れた方がいいか?」
見慣れぬ状況への興奮と、盗み見てしまったという罪悪感に襲われて、踵を返しそうとした俺だったが、『すいません……ずっと女子高だったもので、男子の方のノリがわからなくて……』という言葉を思い出して足を止める。
女子高でも告白されていたかもしれないがあちらは友情の延長上の百合百合しい感じかもしれないが共学の場合は話が違う。ましてや、彼女はおしとやかそうだし、男が強引に誘ったら断れないんじゃ……と心配してのぞいた時だった。
「だったら、友達からはじめようよ。連絡先の交換だけでもさ……」
「申し訳ありません、異性との連絡の交換は禁じられておりますので……」
案の定困惑している白金さんなのだが、男の方も折れない。彼は確かサッカー部のエースの先輩だったか……顔はいいがあまり良い噂の効かない人だ。
ちょっと強引な相手に困っている白金さんに声をかける。助けに行こうと足を踏み入れた時だった。
「嘘だぁ、だって、安心院なんかとは仲良くしているじゃん。俺の方が絶対楽しませるからさ」
「安心院なんか……?」
白金さんの表情が一変し、それまでの困り顔から表情がすっと消え去り、その瞳には冷たいものが宿る。
先輩はそれに気づかずに、白金さんの肩を抱こうとして……そのまま手をつかまれて投げ飛ばされた。その時の勢いでスカートがまくれ黒いレースの何かが見えたのは気のせいではないだろう。
「ひげぶ!!」
「すいません、私は心を許していない方に触られるのがたまらなく不快なんです。ましてや異性に触れられるなんて虫唾が走ります。今後は気を付けくださいね」
いや、強いな!! 合気道という奴だろうか? 女性の護身術として聞いたことがあるけど、生で見るのは始めてだ。
と肩からおちてぴくぴくとしている先輩を見て、そんなことを思っていたら、こちらに気づいた彼女と目があった。
「安心院君……見ていたんですか? そのはしたないところをお見せしてしまいましたね……」
顔を赤らめて、あたふたとする白金さん。
「いや、眼福でした」
「え? 人を投げるところがですか……? もう、からかわないでください」
おっと、パンツの話ではなかったようだ。白金さんは先ほどまでの冷たい視線はどこにいったやら可愛らしいしぐさで恥ずかしそうに顔を赤らめて手で覆う。
「でも、この人に変なことをされないかなって心配してたけど、大丈夫みたいだね」
「まさか……心配してくれたんですか? やっぱり安心院君は優しいです!!」
嬉しそうにこちらによって来ると、白金さんが俺の手をとって握りしめる。柔らかい感触と不思議な甘い匂いが何とも心地よい。
「というか、俺に触るのは大丈夫なの?」
「はい、安心院君に触れると不思議と安心するんで大丈夫です」
さっき異性に触れられるの嫌って言ってなかった? などと思っていたが、幸せそうな顔をしているので突っ込まないでおく。
やっぱり男としてみられていないのだろうか? 今だって美少女に手を握られてちょっと心臓がバクバクしているというのに……これで白金さんがヤンデレだったら惚れてたかもしれない。
「まあ、その……これは放っておいて、学校案内に行こうか?」
「はい、ありがとうございます!!」
そして、気絶している先輩をおいて、図書館や美術室など、これから授業で使いそうなところへと向かうのだった。
「ありがとうございました。安心院君のおかげで明日からの移動教室は完璧です」
「いえいえ、どういたしまして……」
まあ、学校の案内と言ってもそれといてみるべきところはあまりなく結構あっさり終わり帰路についていた。午前中は晴れていたが、曇ってきて雨が降りそうである。
それよりもさ……さっきからずっと手をつないでいるのはいいんだろうか?
一度離そうとしたら、とても悲しそうな顔をされたのである。
撃退したとはいえ知らない男に絡まれてこわかったのかなと思うと無下にもできないし、まあ美少女に頼られるのは悪い気もしないものである。
「白金さんは結構漫画とかラノベ読むんだね」
「はい、女子校って結構そういうのが流行るんですよ。その……男同士の恋愛漫画とかも……最近はブルー〇ックとか熱いですね!!」
「なるほど……?」
え? 男同士の恋愛? ブルーロッ〇ってサッカーマンガじゃなかった? と疑問に思ったがつっこんだらちょっと怖いことになりそうなのでスルーする。
まあ、こんな感じのくだらない会話をしながら俺と白金さんは一緒に帰宅していた。お嬢様っぽい外見からは想像つかないが結構趣味があうこともありとてももりあがっていた。特にヤンデレ的な行動に詳しく、俺も大変勉強になったものだ。
そして、そろそろ俺の家に着きそうな時だった。ぽつりと冷たいものが頭にかかる。
「げぇ、ふってきやがった」
「きゃあ!! 結構強いですね」
ザーッと振ってきた雨はあっという間に俺たちに襲い掛かり、その体を濡らしていく。そして、濡れるとなるといろいろと透けてしまうわけで……現に白金さんの胸元は黒い色気のあるものが透けてきて……
あわてて目を背けて、彼女の手を引く。
「こりゃあ、やばいな。とりあえずうちに避難しよう!!」
俺の白金さんの手を握ったまま「雪村」と表札の書かれたわが家へと避難するのだった。そして、後ろを向いていた俺は白金さんが嬉しそうな笑みをうかべていたことに……まるで獲物の巣に入った蛇のように爛々とした目をしていたことに気づいていなかったのだ。
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たまたま同じ委員会になって、たまたま学校案内した日に雨が降るなんてすごい偶然ですね……
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