第44話 ドロシーとナルヴィ

「六奇人の奇襲は凌いだけれど、どうしたものだろうな……」



 ぼろぼろに破壊された私室の代わりに使っている客室で俺はひとり頭を抱えていた。今回の奇襲によるダメージはかなり大きい。

 イリスは戻ってきたナナシ経由で盗賊ギルドで拘束してもらっているが屋敷はぼろぼろである。



「まあ、死者がいなかっただけでも儲けものか……先生には感謝しかないな……」



 イリスによって隔離されていた男性の使用人たちだったが幸いにも先生が気力で催眠にあらがっていたおかげで負傷者こそいるものの死者はいなかった。話を聞くとお互いに殺しあう前に全員気絶させたらしい。

 催眠がとけて一部の人間を傷つけてしまってへこんでいた先生だったが、俺としては感謝しかない。それとは別に問題になっているのは……

 窓から見える庭の光景に俺は思わずため息をついた。



「みんなの仲が良すぎるのって気のせいじゃないよなぁ……」



 そう、メイドたちがすっかり仲良しになってしまったのである。もちろん、性的な意味で!! 現に今も庭の掃除をしている二人のメイドがあたりを見回してから、唇を重ねては顔を真っ赤にしているのが目に入った。



「父上の巨乳ハーレムが百合ハーレムになってしまった!!」



 そう、元から百合の素質があったのか、父上のハーレムプレイの影響なのか半数以上のメイドたちでカップリングが形成されてしまったのである。

 帰ってきた父上はどんな反応をすることやら……俺が思い悩んでいるとノックの音がする。



「空いてるぞ」

「失礼します。お義兄様」

「失礼しますグレイブ様」



 やってきたのはなぜか顔を俯いているドロシーと元気そうなナルヴィである。彼女たちには後処理の手伝いをしてもらっているのだ。



「グレイブ様、教会の方に救援を依頼しておきました。邪教の幹部を捕らえたからか、とてもよろこんでおりましたので、しばらくたてば人員が派遣されてくると思います」

「ああ、神官がいれば今回のような奇襲は避けられるだろうからな。ありがとう、ナルヴィ」



 ナルヴィの言葉に俺はほっと一息つく。神官たちは邪教の気配に敏感だ。これで今回のようなこともなくなるだろう。



「ベロニカは今頃先生と旅行中か?」

「はい、だいぶへこんでいたようですが、ベロニカさんが必ずや元気にして見せると気合をいれてましたよ」

「この状況の屋敷にいても気分が滅入るだけだしな」

「うふふ、『休暇だけでなく、お金まで渡してくださってこのご恩は一生かけても返す』とおっしゃってましたよ。グレイブ様は本当にお優しいですね」

「頑張ってくれた人には褒美があってもいいと思うんだよな」


 

 精神的に疲弊している先生にリラックスしてもらおうとしただけなのだがなぜかナルヴィは敬意に満ちた目で見つめてくる。

 まあ、労働者の権利なんてないこの世界では使用人などにこういうことをする貴族はいないのかもしれない。だけどさ、俺たちのために働いてくれたのだ。そのくらいのお礼はしたいじゃん。

 そして、最後の懸念に声をかける。



「催眠にかかったらしいが、もう大丈夫かドロシー」

「うう……」



 それまでずっと押し黙っていたドロシーに優しく声をかけたのだが、なぜか泣き崩れてしまった。動揺した俺はおもわず彼女にかけよると、抱き着いてくる。



「お義兄様……私は留守を任されていながら、奇襲を許した挙句あっさりと敵の魔法にかかってしまいました。こんな私に価値はないですよね……」

「え……いやいや、ドロシーは頑張ってくれたよ。あんなん敵がインチキすぎただけだ」

「でも、お義兄様は見事にあいつを倒したじゃないですか!! それに、ベロニカさんやナルヴィだって役に立ってました。なのに私はただの役立たずです!!」



 悔しそうに顔をゆがめながら俺の胸元で泣くドロシーの頭をなでてやる。なんて責任感が強いのだろうか? そもそも彼女はまだ子供なのだ。十分やってくれているというのに……



「ドロシー、俺はお前のことを役立たずだなんて思ってことはないよ。お前の魔法でイリスだってたおしたんだ。それにお前はまだ若い。だからさ、これからどんどん強くなって俺を支えてくれよ」

「本当ですか……私はお義兄様の役にたててますか?」

「ああ、当たり前だろ」

「じゃあ、ベロニカさんやナナシみたいに抱いていただけますか?」

「ああ、あたりま……はぁ!?」



 抱くってこういう風に抱きしめる事じゃないですよね? そもそも俺はまだ誰も抱いたことはないですけど、童貞なんですけど!!

 


「嬉しいです、お義兄様!!」

「え、あ、え……? いや、ドロシーあのな……」



 俺があわててなだめようとするとドロシーの瞳からさぁーーーとハイライトが消えていき、催眠状態だった彼女がイリスをぼこぼこにしていたのが思い出される。



「やはり私のような無能な女は抱く価値すらないということでしょうか?」

「いや、ちがうって、俺たちは兄妹だろ!!」

「でも、血はつながってませんよ? お義兄様が妻しか抱かないというのならばわかります。ですが現にハーレムをつくっているじゃないですか!!」

「う……」



 確かに俺は今ベロニカやナナシとは仲の良いし、ちょっと怪しい関係であることは否定できない。

 ナルヴィに助けを求めると満面の笑みで答える。



「ドロシー様はずっとグレイブ様を慕ってらっしゃったのです。とっくに覚悟はされていますよ」


 意外にもナルヴィがドロシーの味方をする。いや、いいのか? よくねえよ。だって俺は童貞を失ったら加護が……

 そんなことを思っているとドロシーがふるえながらも体をおしつけるようにして抱き着いてくる。目が合うとまるで懇願するようで……俺はこんなにもまっすぐ見つめてくる彼女に不誠実でいいのか? と頭がよぎる。



「ドロシー……俺は加護の影響でエッチはできないんだ。力を失うんだよ」

「そんな見え透いた嘘を……嘘じゃない……?」



 さすがヤンデレ少女。俺の目を見ただけで嘘かどうかわかったわかったらしい。怖いけど便利だな!!



「だからさ、お前が望むだけイチャイチャはしようと思う。どうだ?」

「はい!!」



 俺の言葉にドロシーが満面の笑みで頷いた。そしてそれ見たナルヴィが去ろうとする。



「うふふ、雨降って地が固まるですね。それでは私は失礼して……」

「ナルヴィ待ってください。あなたもお義兄さまとそういうことがしたいんじゃないんですか?」

「え?」



 間の抜けた声を上げたのはもちろん俺である。ナルヴィの感情は尊敬だって本人も言っていたんだが……そして、なぜか、ナルヴィは扉にてを置いたまま止まった。




「ドロシー様なにをいってらっしゃるのですか? たかがメイドが主にそんな気持ちを抱くはずがないじゃないですか?」

「そうですか? イリスを倒した後に私が頭を撫でられているのをうらやましそうに見ていたのはきのせいだったでしょうか?」

「それは……」

「私に嘘は通じませんよ」



 ドロシーの言葉にナルヴィは目を大きく見開いて……そして、観念したように俺を見つめる。その顔はりんごのように真っ赤で、瞳はうるんでいた。



「ドロシー様……ひどいです……キスだけで我慢して、この気持ちはずっと秘めておくつもりだったのに……」

「そんなのは私が許しません。だって、ナルヴィはいっつも私たちのために頑張ってくれているのに、我慢ばかりするじゃないですか。私やお義兄様の前でだけはそんなことを許しません。ちゃんとわがままを言ってください!!」

「ドロシー様……」



 二人が盛り上がっていく中俺だけが状況についていけない。あれ、ナルヴィとフラグ立ってたの? いや、まじで?



「ナルヴィは俺のことが好きなのか……?」

「……はい、畏れ多くもグレイブ様を一人の男性としてお慕い申しています……その、迷惑じゃなかったらドロシー様と一緒にかわいがっては頂けないでしょうか?」

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




 うおおおおおお、ついにありがとセックスだぁぁぁぁぁ!! だけど、ドロシーとならばともかく、ナルビィの爆乳を見て俺は踏みとどまれるだろうか? 

 なあなあ、童貞判定ってどこまでなんだよ、へファイトスゥゥゥゥゥ!!!! おっぱいはセーフかな?



「お義兄様、私の時よりうれしそうじゃないですか?」

「……いや、そんなことはないぞ。ドロシーは可愛いなぁ」



 じとーっとした目で見つめるドロシーの視線から逃れるようにして、彼女を抱えて胸元でその小さな顔をおおってやる。

 


「ああ、お義兄さまの香り……」

「ナルヴィもこっちきたらどうだ?」

「はい……お言葉に甘えて……」



 そうして、少し緊張した様子の彼女と目が合うと、顔を真っ赤にしながらも目をつぶって唇をつきだしてきた。

 流石の俺でもどうしてほしいかくらいはわかる。



「ナルヴィ……大切にするからな」

「えへへ、今度はちゃんとしたキスをできましたね……胸がポカポカします」



 唇を軽く重ねるとそれだけで、幸せそうな吐息を漏らすナルヴィ。そして、次はとばかりに物欲しそうな顔でこちらを見つめているドロシーとも唇を交わすと……



 うおおお、舌をからませてきやがった。



 だけど、俺とてやられっぱなしではない。反撃とばかりに舌を押し付けてドロシーの口内を蹂躙して……



「失礼いたしますわ。ここがグレイブ=アンダーテイカー様のお部屋で……え?」

「ほう、さすがは我が息子だな……」



 扉が開くと法衣を身に着けた爆乳な女性と、父上がこちらを見て驚きの声をあげる。そして、突然の乱入者に俺たち三人は思わず動きをとめるのだった。

 いや、父上ガッツポーズしている場合じゃないですよ!!







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