第45話 無垢なる聖女

 時系列は少し戻る。


 グレイブの父であるブラッドは自らの屋敷を邪教に襲撃され、その結果撃退したことを魔法で知り、急いで馬車で帰宅していた。



「まさか六奇人の一人をとらえるとは……さすがはアンダーテイカー家のご子息ですわね」

「ええ、私の自慢の息子ですから……」

「ふふ、優秀なお子さんをもってあなたは幸せですわね」



 向かいに座る法衣を身にまとう少女が誇らしげに答えるブラッドに微笑みかける。彼女は邪教の捜査をすべく教会より派遣された人間だ。いや、ただの人間ではない……


「とはいえ私の息子もあなたほどではありませんよ。『理想の聖女』エレノア様。あなたはたった一人で六奇人の一人を改心させたのでしょう?」

「聖女だなんて……私はただ、人々を救っていただけですわ」



 ブラッドの誉め言葉に当然のことをしただけとばかりに微笑む。その笑顔をみただけで彼は自分の心が洗われるのを感じる。

 腰まである銀色の髪に露出の少ない法衣の上からでもわかる豊かな胸元、そして、芸術品のような人間離れした美しい顔をした少女だ。

 まるで芸術家の描いた絵からでてきたような神秘的な雰囲気を持つエレノアは教会にて英才教育を受けた天才少女だ。プリーストとして能力はもちろんのこと、性格も非がなく『理想の聖女』『女神の生まれ変わり』などと呼ばれているのである。

 そんな彼女を見てブラッドは思わず言葉をもらす。



「おっぱいでっか!!」



 それも無理はないだろう、彼のメイドたちの中は巨乳ぞろいであり、ナルヴィのような爆乳もいるが、聖女という清楚な存在だというのに男を悩ます大変に興奮していた。

 彼の心はさきほどエレノアの顔を見て心が洗われたが胸を見て即座に穢れたのである。


 このおっぱいで聖女は無理でしょ


 転生者ではないブラッドだったが奇しくも、ネットミームと同じことを思ったのである。



「今なにかおっしゃられましたか?」

「よかったらあなたも私のハーレムに入りませんか?」

「は……?」

「やっべ……」



 反射的にでた言葉に対してきょとんとするエレノアに思わず真っ青になる。彼女は先ほども言ったように教会で英才教育を受けた聖女である。そんな聖女に不敬なことを言えばブラッドとてただではすまないのだ。

 だが、彼はその豊かすぎる胸を見て反射的にさそってしまったのである。



「申し訳ありません、エレノア様……さきほどのはジョークでして……」

「無知で申し訳ありません。お誘いいただいて申し訳ないのですが、ハーレムとはなんですの?」

「ハーレムをご存じない……?」

「はい、教会ではそのようなことを習いませんでしたから」


 申し訳なさそうにするエレノアにブラッドは助かったと安堵すると同時に疑問に思う。


 教会の人々はどのような教育をしていたのだ?


 当然だがこの世界でハーレムという言葉は平民でも知っている一般教養である。男の子はみなハーレムを目指しがんばるのである(諸説あり)



「失礼ですが、エレノア様は子供がどうできるかご存じですか?」

「いきなり何をおっしゃっているのですの?」

「お願いします。どうしても知りたいのです」


 完全にセクハラだが、ブラッドは自分の知的欲求に逆らうことができなかった。困惑しているエレノアだがじっとブラッドが見つめていると根負けしたかのようにため息をついた。



「これからあなたの家にお世話になるわけですし、別にこれくらいは答えても構いませんが……」

「ありがとうございます」

「愛し合う男女が一緒に寝ると、神様が授けてくださるのでしょう?」

「うおおおおおおお!!!」


 何を当たり前のことをと答えるエレノアにブラッドが思わず感動の声をあげる。なんという無知で尊いことか!! 



「どうされましたか?」

「いえいえ、申し訳ありません。古傷がいたんだようです」


 エレノアの年齢は18歳くらいだろうか……無知な聖女という存在に思わず興奮してしまったが、深呼吸をして落ち着かせる。

 彼女はけがしてはいけない気がする。少なくとも教会を敵に回す度胸のないブラッドはそう思った。



「もう少しで屋敷につきます。そこで息子を紹介いたしましょう」

「ありがとうございます。二人の六奇人を倒した英雄様……お会いするのが楽しみですわ」



 楽しみにほほ笑むエレノアを見て思う。だが、もしも、息子が彼女のハーレムの一員にしたいと願い、エレノアもその意味を知り、受け入れるとなったら自分はすべてをかけて守るとしようと……

 最近自分のようにハーレムをつくっているグレイブならばやりかねないからなと、あらかじめ覚悟しておくのだった。

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