第3話 ハーレムのために

「斬鉄!!」



 俺が全力で踏み込みすべての力をいれた一撃が、鉄の棒を切り裂いた。まだ正体のわからぬ加護のおかげなのか、金属の弱い部分のようなものがうっすらとわかるのだ。



「はっはっは、グレイブ様。もう、すでに剣技をマスターするとはさすがです。一生懸命がんばっておられましたからな」

「お前の教えが良かったからだよ。ありがとう」



 感謝の言葉を伝えると、壮年のガタイの良い男がまんざらでもないようにほほを赤くする。元王宮の副騎士団長らしいが、男の好感度何てどうでもいい。

 くっそ、ゲームの主人公の師匠は爆乳な剣士で、技を覚えたらご褒美にパフパフとかしてもらったのに、俺はなんでむさい男なんだ? これが主人公との違いというところだろうか?

 まあ、それはともかく教える腕前は確かなようで、俺の剣術の腕はどんどん上がっていった。グレイブのやつゲームではなんであんなに弱かったんだろうな? 



「あ、グレイブ様。訓練ですか? 精が出ますね」

「ああ、いざとなったときには守る力が必要だからな」

「さすがはグレイブ様です!! あなたが領主になればアンダーテイカー領も安泰ですね」

「任せておけ、お前のことも俺が守ってやろう」



 濡れたタオルを渡してきた使用人と気安くは会話を交わす。俺が守るのアンダーテイカー領じゃなくて、おっぱいの大きい女の子なのだが……ちなみに彼女もナルヴィほどではないが胸が大きいので守る対象である。



「ありがとうございます。グレイブ様」



 俺がこの体になってから半月が立っていた。巨乳なメイドには優しくしていただけなのだが、父の趣味なのかおっぱいの大きい女の子ばかりだったために使用人たちの評価がどんどん上がっていたのである。

 これも巨乳のご利益だろう。



「ふー、さっぱりした。今日は勉強もないしどうしようかなー」



 訓練で汚れた体を拭いてさっぱりした俺が上機嫌で廊下を歩いている時だった。目の前から一人の少女が歩いてきて、思わず体が固まった。

 銀色の長い髪に幼いながらも整った芸術品のように美しい顔。笑顔でも浮かべていれば愛嬌もあるだろうがその表情と瞳からは一切の感情が感じられない美少女だ。



「げ……ドロシーかよ……」



 ドロシー=アンダーテイカー。グレイブの義理の妹であり、大魔法使いとして活躍するメインヒロインの一人だ。そして、グレイブがハーレムにナルヴィを無理やり入れようとした時に、拷問にかけて地獄の炎で焼き払った女である。

 そんなことはどうでもいいのだが、最も大事なのはこのゲームの唯一の貧乳ヒロインだということだ。



「ごほごほ……おはようございます。お兄様」

「ああ、おはよう。ドロシー、無理をしなくてもいいんだぞ」



 せき込みながらもドレスの裾を持ちながら挨拶するドロシーにやさしく返事するが、彼女の無表情は変わらない。それどころか、一瞬瞳がするどく細められたのは気のせいだろうか?



「以前は挨拶しても無視だったのにずいぶんとお優しくなりましたね、まるで……人が変わったようです」

「……」



 ぞくりと背筋を冷たいものが走る。こいつ、まさか、俺が転生者だって気づいているのか……? そんなまさか……というのはあながち考えすぎではない。

 膨大な魔力と共に、するどい観察力を持ち、主人公が浮気したら即座に殺そうとしてくる。ちょっと過激なヤンデレ貧乳ガールなのである。



「冗談ですよ、それでは失礼します……ごほごほ……」



 ドロシーはにこりともせずに頭を下げるとそのまま自室の方へと歩いて行った。ちなみにだが、ゲームでのグレイブはナルヴィのことは置いておいても彼女との仲はあまりよろしくない。


 強力な魔力を目当てに養子となったドロシーだが、病弱なため父からは失望され、兄であるグレイブはそんな彼女に領主の座を奪われまいと嫌がらせをしていたのだ。もちろん、俺は嫌がらせをするつもりはないが、こっちから積極的に仲良くしに行く気もないというのが現状だ。怖いし貧乳だし……



「さーて、気分転換になんか飯でもつまもうかな……」



 そう思ってキッチンに行くと、使用人たちの会話が聞こえてくる。しかも、ナルヴィの声も聞こえてくる。思わず聞き耳を立てると聞こえてきたのは……



「そういえば、最近はグレイブ様と仲良いみたいだけど、どうなのよ? あの人が変わったのもあんたと話してからみたいだし……愛人として誘われてたりとかしてないわよね?」



 何言ってんだ、このメイド!! 変なこと言うんじゃねえよと脳内で文句を言わせてもらう。そもそも童貞の俺は愛人の前に爆乳な彼女が欲しい。というか、グレイブの最初の好感度が低すぎるだろ……



「グレイブ様が私を異性として見ているっていうことですか……?」



 だけど……ナルヴィがどうこたえるかもむっちゃ気になり、聞き漏らさないようにとより近づく。



「あはは、そんなことありえないですよ。だって、あの人は私のことをそういう対象だと思っていないんだと思います」

「は……?」



 なんでや!! 俺はむっちゃ異性として見てるぞ!! むしろ、そのおっぱいを揉みたいとずっと思っているというのに……

 もしかして、童貞特有の何かでいつの間にか嫌われていたのだろうか……? おそるおそる顔をのぞかせると、どこか誇らしげに笑顔でしゃべっているナルヴィが見えた。

 嫌われてはいなそうだ、ならなんで……?



「だって、グレイブ様は一度も私の胸元を凝視しなかったんですよ。あの人は純粋に私たちみんなに感謝して心を入れ替えたんだと思います。すごいですよね……貴族なのに私たち使用人にも親切にしてくれて、気軽に話しかけてくださいますし、剣の修業もとっても頑張っているって聞きます。まさに尊敬すべき主様って感じですね……」

「確かに……あんたのその胸を見ないのはすごいわね……もしかして、ロリコンじゃ……」



 待て待て、立派な人間を演じすぎたーーー!! なんか異性として見られてないじゃん。尊敬する上司みたいになってんじゃん。だって、モテる本に書いてあったんだもん。女の子の胸を凝視してはいけないってさ!! なのにフラグは立っていないし、あげくになぜかロリコン扱いされてんだけど!!


 俺は何とか軌道修正できないかと頭を働かせる。くっそ、童貞の俺には経験も知恵もなかった!! そりゃあ、主だから無理に命じればエッチなことはできるかもしれない。だけど、それではダメなのだ。合意の下でいちゃらぶセックスで童貞を卒業したいのである。



「でもさ……それだけ立派な主様ならあんたのお願いも聞いてくれるんじゃない? 例のドロシー様の薬草を取りに行きたいってやつ……」

「そんなダメですよ……本当にドロシー様に効果があるかはわからないですし、あそこには危険な魔物がいるという噂もあるんです。グレイブ様をそんな目にあわせるわけには……」



 ドロシーの治療薬だって……? 確かにゲームでもそんなイベントはあった。だけど、こんな前から場所を知っていたとはな……

 そして、俺ならば治療薬への最短ルートだって知っている。



「話は聞いたぞ、ナルヴィ。かわいい義妹のためだ。俺が行こうじゃないか」

「グレイブ様……話を聞いて……?」



 少女のピンチにさっそうと登場する俺かっこよくない? 決め顔で言ってみたが効果はあるだろうか?



「ですが、薬草の生えている場所の近くは強力な魔物が現れるんですよ……」

「心配するな。俺の力は困っている人を助けたり、大切な人を守るためにあるんだよ」

「グレイブ様……素敵です」



 ゲームで主人公が言って、ナルヴィの好感度が上がったセリフをパクリながら護身用の剣の柄を叩く。俺が薬草探しに乗り気になったのは、もちろんドロシーのため……なのではない。

 実はゲームでは無事に薬草をてにいれて帰ると、ナルヴィがその晩に「せめてものお礼です……」とちょっとエッチな格好と寝室に来るのである。

 いわゆるご褒美セックスイベントである。



 そして、好感度が上がっている状態で告白すればそのままいちゃらぶセックスにもできるだろう。まさに知識チートを使った完璧な俺は未来ににやりと笑うのだった。






「どうしてこうなった……?」



 翌朝、待ち合わせ場所につくと、そこには籠を持ったナルヴィがいた。彼女は気合をいれているかのように腕をにぎりしめて籠の中身をみせてくれる。

 中にはお肉や野菜のたっぷりと挟んであるサンドイッチがみえる。



「グレイブ様、今日のために元気が出るご飯を作ったので楽しみにしていてくださいね」



 ピクニックではないんだが……というツッコミ野暮である。それに薬師としての能力も持つ彼女のお弁当には治療効果もあるのだ。

 何よりもかわいくて爆乳な女の子の手作りお弁当というのがテンション上がる。それよりもだ……



「なあ……なんでドロシーもいるんだよ……」

「それはですね、昨日ドロシーお嬢様にこのことをお話をしたら自分もついていくと聞かなかったんです……」

「ごほごほ……何を内緒話をしているのですか……?」

「いや、体調悪いのに大丈夫なのか?」

「問題ありません。それよりも……ナヴィアと二人っきり出ないといけない理由でもあるのですか、お兄様?」



 相も変わらず無表情なドロシーに思わず寒気がする。こいつは俺を怪しんでいるし、うかつなことをしたら殺される気がする……






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