第4話 ドロシーという少女

「薬草はこの森の奥にある泉のそばに生えているそうなんです。ただ、そこには強力な魔物がいるという噂もあるので気を付けていきましょう」

「ああ、大丈夫だ。力をあわせれば必ず見つかるさ」

「うふふ、さすがはグレイブ様です。頼りになります」



 さわやかに答える俺にナルヴィも笑顔を浮かべる。

 時系列こそ違えど、ナルヴィがゲームと同じ言葉を発するのに俺は感動していた。このままいけばきっとありがとセックスである。

 テンションが上がって仕方ない。ここでかっこいいところを見せて彼女に異性として見てもらうぞ!! だが一つ問題があった。



「ゴホゴホ……最悪の場合は私の魔法で何とかします。だから安心してください」



 さわやかに答える俺とは対照的にせきこみながらも俺とナルヴィの間に割り込みながら答えるドロシー。彼女がイレギュラーだ。ゲームではもっと重症の為、ベッドでから起きれないほどなのであり、主人公一行と道案内のナルヴィとで薬草を取りに行くのだが、ゲーム開始から五年前の今はまだ一緒に森に入るくらいの体力は残っているようだ。



「ドロシー様、大丈夫ですか?」

「ええ、ナルヴィが作ってくれた薬のおかげで、いつもより元気なくらいです」



 心配しているナルヴィを安心させるように微笑むドロシー。子供のころからの付き合いであり、薬師としても信頼しているナルヴィにはドロシーも心を開いているようだ。

 ゲームでも、百合ルートがあるくらいだし、無理やり手を出そうとしたグレイブをぶっ殺すくらいだもんな……冷静に考えたらナルヴィを爆乳ハーレムにいれるのならば、ドロシーの信頼を得るのも必要だろうし今の状況はラッキーとすらいえるだろう。これで貧乳じゃなければ彼女もハーレムの一員にできたのに……



「お義兄様……今、不愉快なことを考えませんでしたか?」

「何を言っているんですか、グレイブ様はドロシー様を傷つけるようなことは考えてませんよ、ね」

「あ、ああ……」



 うう、ナルヴィの信頼の目がまぶしいよう……絶対爆乳ハーレムのことはまだ内緒にしようと誓いつつ泉へと向かう。



「二人とも足元を気をつけろよ」

「……はい」

「もちろんです。先頭を歩いて疲れたらいつでも変わるので言ってくださいね!!」



 感情の読めないドロシーの声と対照的に優しさに満ちたナルヴィの返事が返って来る。うおおお、ここでかっこいいところをみせるぞ。と気合が入るのは男の性だろう。

 幸いにも狩人も通っているのか、獣道が少しマシになった程度だが、整備されていて歩きやすい。それに、この道はゲームで覚えているからな。

 そして、しばらく歩いた時だった、ガサゴソっと音がする。



「魔物だ!! 気をつけろ」

「「ゴブゴブ!!」」



 俺の言葉と共にナルビィが身構え、ドロシーが杖を構える。その間にこちらにやってきたゴブリンという子供くらいの人型の魔物に斬りかかり瞬殺する。

 ははっ。所詮は雑魚モンスターだな。人型の生き物を斬るのにもっと抵抗感があるかと思いきやグレイブと同化していたからか全く感じなかった。

 ハーレムにも抵抗感ないし、こちらの倫理観にそまってきたようだ。いや、ハーレムに関しては元からか……



「流石です、グレイブ様」

「この程度敵ではないさ」



 よっしゃーーー、もっとほめてーーとばかりにちょっと派手目に剣を構えるが、仲間がやられて警戒したのか、ゴブリンたちは距離をとりやがった。

 だけど、好都合だ。



「ドロシー、魔法を頼む!!」

「ごほごほ……言われなくてもわかっています。炎の矢よ……」

「ファイヤーアローじゃない。もっと強い魔法を使え!!」



 初級魔法の詠唱を始めたドロシーに大声で叫ぶと彼女は困惑しながら抗議の声をあげる。



「なっ……私をなめているのですか。この程度の魔物なら……」

「ドロシー様、グレイブ様には何か考えがあるのだと思います」

「わかりました……ナルヴィが言うのなら……お義兄様どいてください!!」



 ナルヴィの言葉に従って、俺はゴブリンたちからさらに距離をとる。そういえばドロシーはトラウマで人間には魔法をうてないんだったな……



「これだけ離れていれば……氷の嵐よ、わが敵を凍てつかせたまえ!!」



 先ほどよりも大きな魔力が、ドロシーの杖から氷が何本もの渦状の氷が生まれてゴブリンたちを物言わぬ氷の彫刻にしてしまう。


 やっぱり、すげえーな。これがメインキャラの力か……しかも、これだけの威力だ。加護にも目覚めているのだろう。



「すごい魔力だな。流石じゃないか?」

「別にこんなものは忌まわしいだけですよ……」



 せっかく褒めたというに冷たくあしらわれてしまった。そして、きっと鋭い目つきでこちらを見つめてくる。



「お義兄さま、わざわざ強力な魔法を使わせたか理由を教えていただけますか?」

「その前に……ドロシーちょっと呼吸が楽になってないか?」

「え……確かに……」

「本当です!! ドロシー様呼吸が落ち着いています!! すごい……流石ですグレイブ様!!」



 俺の言葉に二人が驚愕の声を漏らす。喜んだナルヴィがドロシーの手を握って跳ねるもんだからおっぱいもブルンブルン揺れている。

 ナイス、おっぱい!! と内心拍手しながらドロシーを見つめる。



 こいつの症状は確か魔力漏れなんだよな……



 あまりに強力すぎる魔力が体に負担をかけているのである。屋敷などでは強力な魔法が使えなかったから、魔力がたまっていたのだろう。

 ゲームでナルヴィを攻略している最中にドロシーの病のイベントがあったので詳細を覚えているのである。ちなみにドロシールートはやっていない。



「義兄さま……なんでそんなこと知っているのですか……」

「それはだな……」



 ドロシーの目が鋭く細められる。その表情には困惑の色が濃い。確かに謎の病気と言われているのに、症状を緩和させる方法を知っていたら怪しいか……特に俺は彼女からは良い風に思われていないしな……

 どう言い訳をしようと悩んでいると意外な助け船がきた。



「まさか、最近グレイブ様が書庫で調べ物をしていたのは、ドロシー様のことを調べていらっしゃったからなのですか? 流石です!!」

「え……ああ、そんなところだ。同じ症状の人間がいたようだからドロシーにも効果があるか試したんだよ」

「な……」



 加護の中に覚醒の条件が『本を十冊読め』というのがあったので試していただけなのだが、ナルヴィにみられていたようだ。まさか異世界から転生したんですとは言えないので、ちょうどいいとばかりに話を合わせ、ドロシーの方を恐る恐る見つめると驚いたかのように目を大きく見開いていた。



「その……ありがとうございます。そして、疑っているようなことを言って申し訳ありませんでした……」

「あ、ああ……」



 一瞬間が開いた後ドロシーが美しい所作で頭を下げてくる。今までの態度とは違い思わず俺が驚きながらも返事を返す。

 ナルヴィはというと……俺に尊敬のこもった目でこちらを見ている。よし、完全に偶然だが、二人の好感度があがったようだ。

 ふふふ、爆乳ハーレムに一歩近づいたぜ。



☆☆



 グレイブはそんな風にうかれていたからこそ、気づかなかったのだ。ドロシーが先ほどまでとは違うドロリとした重い感情に満ちた視線をおくっていることを……そしてぼそりとつぶやいたことを……



「まさか……本当に、義兄様の中身が変わっているという事でしょうか?」

「ドロシー様、大丈夫ですか? 行きますよ」

「ええ、すぐ行きます」



 ナルヴィに声をかけられてドロシーは再び歩み始める。だけど、先ほどとは違いグレイブを見つめる回数は増えていた。




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