第2話 素敵なのはおっぱいだけではない理想のメイド ナルヴィちゃん

 立派な装飾のついた扉の前で俺は呼吸を整えてから、ノックする。すると、しばらく間が開いてから渋い声で「入れ」と聞こえてきた。

 そう、領主である父にとあるお願いがあってきたのである。グレイブの父はゲームではすでに死んでいるため出てこないが、噂ではグレイブと同様の悪役領主であり、こいつの記憶では厳しい人間だとある。



「父上お願いが……は?」



 緊張して扉を開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。そこにいたのは父だけではなかった。彼をマッサージしている申し訳程度のレースのあしらわれた水着(ア〇ゾンとかで売ってるエッチな奴)にカチューシャをつけたメイドがいたのである(しかも、おっぱいがでかい)そして、それだけではなく、ほとんど半裸に近い状態のメイドが父に果物を手あーんとさせて食べさせていた(この人もおっぱいがでかい)

 巨乳ハーレム作ってんだけど!!



「何かお願いがあると言っていたな、聞いてやるが……お前のことだ。どうせ、欲しいものでもあるとかだろう……? 前に言っただろう、ねだるな……勝ち取れと」



 女性にといちゃついているだけだというのになんというプレッシャーだろうか? こちらを見つめる視線はするどく、まるで歴戦の猛者のような風格がある。ただし、半裸だが……

 ゲームに出ていれば渋いオヤジキャラとして人気が出そうである。



「どうした? 図星だったのか……ならば……」

「いえ、違います!! 俺が欲しいのは剣の教師です!! 俺に力を得るチャンスをください!!」



 予想外の状況にすっかり委縮してしまったが、俺は自分の意思を通す。まあ、冷静に考えたらエロゲの世界なのだ。ハーレムなんて珍しくもないのかもしれない。



「ほう……他力本願だったお前からそんなお願いをされるとはな……惚れた女でもできたか?」

「はい、そうです」



 こちらの言葉に興味深そうに目を光らせる父。惚れた女は知らんが惚れたおっぱいはできた。そう、俺は思ったのである。俺はナルヴィを手に入れるために原作とルートが変わるのならば力が必要になるだろうと……

 というかもう、彼女に親切にしている時点で、原作と違う行動をしちゃったしな!! だったらせっかく好感度が高いのだ。彼女といちゃらぶセックスをしようと決めたのである。



「皆まで言わなくていい。人が変わったようになったと聞いたが、男は女……いや、おっぱいで変わると俺は知っているからな。最高の教師を用意してやろう!!」

「父上……ありがとうございます!!」



 俺の心がわかっているとでもいう風に父は頷いた。

 もしかしたら、父にも何かあったのかもしれない。そう言えばすでに死んでしまっているグレイブの母も巨乳だし、屋敷のメイドもほとんどが巨乳な気がする……いや、なんか親の性癖を知ってテンション下がってきたな。忘れよう……

 そして、俺はさっそく父の爆乳ハーレムを見て、自分もがんばるぞと一歩を踏み出したのだった。


 


「はぁはぁ……結構しんどいな……」



 剣の先生が来るまでに少しでも体力をつけてみようと屋敷の庭をランニングを終えて一息つきつつも、ステータスを見るが、いまだ加護には覚醒していなかった。

 加護の覚醒の条件は様々だ。たとえば、素振りを一日1000回繰り返したりとか、教会で毎日祈るなど多種多様なのだ。



 なんでそんなに知ってるって? それはゲームの主人公の能力に関係している。異世界から召喚された主人公だけは様々な神の加護を得ることができ、色々なイベントをこなして、神や英雄の加護に覚醒するのである。


 有名なのはドラゴン系の魔物を100体倒すと手にいる『ジークフリート』の加護『竜殺し』などだ。その加護があれば強敵であるドラゴンもトカゲのように楽な相手になるくらいだ。

 そして、一般的には条件が厳しければ厳しいほど一般的には強力な加護をえることができる。



「今できることは試した。となると……結構特殊な加護だったりするのかな。楽しみだ」



 まだ覚醒にせぬ加護に期待しながら、水をもらうために屋敷までの道を歩いていると、人の話し声が聞こえてきた。



「あんたも大変よね、ドロシー様だけじゃなくて、グレイブ様のお世話も任されるなんて……本当に変なことされていない? 大丈夫?」



 自分の名前が聞こえてきたこともあり、思わず身を隠すと、メイド服の二人組がやってくる。一瞬視界にうつったぶるんと揺れる胸から、片方はナルヴィだとわかった。

 何を話しているんだ? 「グレイブ様って童貞っぽいー♪」って馬鹿にされてたらどうしよう、童貞だけど。



「もう、チナは心配性ですね、大丈夫ですよ。それに、最近のグレイブ様はお優しいんですよ。この前も私が不注意でお茶をこぼしたのに、怒るどころか私を心配してくださいましたし……」

「それよね……本当に変なことされてない? 床を汚した代りにその胸をもませろとか言ってきてない?」



 うわぁ……グレイブの評価最悪じゃん……記憶からそんな感じはしたが使用人たちからは好かれていないようだ。

 もしかして、好感度の高そうだったナルヴィも俺の前では合わせてくれただけだったのか?



「そんなことはしませんよ。あの人は過去の自分を反省しているらしいんです。私たちに支えられていたって気づいたって……それで変わりたいっておっしゃったんです。だから、私はあの方を信じようと思います。だから、チナもあの方を信じてあげてください。現にあの方は当主様に剣の師を頼んだりと頑張ってらっしゃるじゃないですか!!」



 天使かな? でまかせで適当にいっただけだというのにすっかり信じてくれているようだ。罪悪感を感じるとともに、俺は彼女が信じてくれたということが、すごいうれしく感じていることに気づく。

 やばい、童貞は惚れっぽいんだよ……ほめられるだけでその子が気になっちゃうんだよ……しかもおっぱいでかいし。

 


「そうね……確かにグレイブ様は変わったわ。いきなり食堂でフライパンを何回も叩いたり、だれもいないパーティーホールで踊ったりしていたけど……あおえwにゴミ箱をやたら情熱的にあさっていたりしていたけど……」



 やっべえ、加護に目覚めるか試したのが見られていたらしい……悪役領主ではないがこれでは単なる頭のおかしくなった人である。



「だけど……一番理不尽なことを言われていたナルヴィが信じるっていうのなら私もちょっと様子を見てみるわ。今度話しかけてみようかしら」

「はい、絶対グレイブ様が優しくなったとわかると思いますよ」



 即答だった。顔は見えないがセルヴィが満面の笑みを浮かべているのが想像にたやすかった。そういえばゲームでも、彼女は心優しく善良で、その明るさが主人公を支えてくれていたのだ。

 おっぱいだけじゃなくて器も大きいんだよな……



 その後、俺は再びランニングを始める。ナルヴィに心の底から信頼されてちょっとモチベーションが上がったのである。

 夕暮れも近くなってきた時だった。そろそろ今日は切り上げようとすると、目の前にメイド服と共に豊かなおっぱいが目に入る。



「グレイブ様遅くまでお疲れ様です。濡れタオルです、体をお拭きください」

「ナルヴィ……なんで? 仕事の時間は終わっているはずだろ?」



 彼女から差し出されたタオルを受け取りながら、怪訝な顔をしてしまう。タオルはひんやりと冷たく、体を動かして熱くなった体を癒すのに気持ちいい。

 だけど、彼女の勤務時間は終わっているし、そもそもここまでの世話は仕事に含まれていないはずだ。



「だって、グレイブ様が頑張っているんです。応援したいなって思ったんですよ」



 満面の笑みを浮かべる彼女を見て、俺は胸が高鳴るのを感じてしまう。前の人生ではこんな風に優しくしてくれた女の子なんていなかった。

 童貞は優しくしてくれる女の子に弱いのだ……やべえ、俺はおっぱいだけじゃなくて性格もむっちゃ好みだ……

 必ずや彼女を口説き爆乳ハーレムの一員にすると改めて誓うのだった。


 ☆☆




「あれは……お義兄さまですか……」



 窓からグレイブとナルヴィがはなしているのを見つめる影が一人。



「お義兄さまが何を考えているかはわかりませんが、ナルヴィを傷つけるのならば私は容赦しませんからね……ごほごほ……」



 人影はせきこみながら殺意にも見た視線をグレイブに送っているのだった。

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