~ 宿屋の屋上にて ~

「何よ話って? リオに聞かれたらまずいことなわけ?」


「それだ」


「はい?」


「リオ……確かあの人間の名前だったか。俺のいない間にずいぶんと仲良くなったものだな」


「え、もしかしてカリム、嫉妬してるの? 自分だけ仲良くなってずるいー、僕もリオと仲良くしたいよー的な?」


「茶化すな、フラム。あいつは人間だぞ。気を許すなと言っているんだ」


「はいはい、話はそれだけ? ならもう部屋に戻ってもいい? せっかくリオがわたしたちの寝床造ってくれてるんだし、早く寝たいんだけど」


「一体何があった? あの人間に何かされたのか? あの金色の竜もなぜか人間であるあいつに無条件で懐いていたが、あの人間にはそうさせるすべがあるんじゃないのか?」


「……カリム」


「なんだ?」


「やっぱり、わたしたち姉弟よね」


「どういう意味だ?」


「似た者同士ってこと。怖がりで、臆病で、小心者。おまけに強がり。カリム、あんたもわたしと一緒。ただ信じるのが怖いだけ。認めるのが怖いだけなのよ」


「……なんだと?」


「あんただって本当はリオが裏切るなんて思ってないんでしょ? だいたい矛盾してるのよ。現にあんた、わたしとリオを二人きりにさせてたし。リオも言ってたけど、もしその気なら、とっくに何かしらの行動を起こしてると思わない?」


「それは……お前ごときに気が回らなかっただけだ。それに……あいつが行動を起こさないのも、俺たちを油断させて後々……とにかく、俺は可能性の話をしているんだ。常に最悪の事態を想定しておくべきだと言っている。あいつは人間だぞ?」


「人間……」


「そうだ。ようやく思い出したか。ならばあいつとの距離感をもう一度よく考え———」


「分からなくなったの」


「なに?」


「わたしだって人間は大っ嫌い。だけど、分からなくなったの。教えてよ、カリム。フェリトナ様を人間に売った妖老会の連中と、フェルピーを命がけで助けに向かってくれる人間のリオ。信用できるのはどっち? この二つの差は何? いつもみたいに理屈でわたしを納得させてよね」


「だから、あいつは———」


「人間? そんなこと見れば分かるわよ。結局、カリムも分からないんでしょ? だから、これはわたしなりに考えて出した結論。カリムにとやかく言われる筋合いはないわ。あんたはあんたで、勝手に慎重にやってればいいでしょ」


「…………」


「久しぶりよね。わたしがカリムを言い負かすのって。いっつもあんたに理屈で言い負かされてさ。里のみんなもわたしよりあんたの方が優秀だって……わたしも内心ではそう思ってた。あんたに勝てるところなんてないって。ずるいわよ、あんた。いつも冷静で、頭も切れて、力も強くて。ついでに里の女の子にもモテモテだしね。でも、一つだけあったみたい、わたしにも勝てるところ」


「……なんだ?」


「さっき、わたしとあんたが似た者同士って言ったけど、あれちょっと訂正。あんたの方がわたしより少しだけ臆病みたいね」


「……それが俺に勝ってるところだと?」


「そうよ」


「ふん、言っておくが、別に臆病なのは悪いことではない。それがお前の言う冷静や慎重さに繋がっているのだからな。そもそも、それを優劣ではかること自体間違っているんだがな」


「あぁ、そうそう、それそれ。あんたの、その理屈っぽいところがムカつくのよね。でも、今日のカリムにはそれが無かった」


「……そうだな」


「あれ? 素直に認めるんだ。ちょっと意外かも」


「俺はいつでも素直だ。それに意外なのはお前の方だ。ずいぶんと素直に俺に劣っていることを認めるんだな」


「言い方……劣ってるって……他に言い方あるでしょ」


「前まではそんなことなかったはずだ。お前が俺にいつも勝ち誇ることと言えば、俺より数分先に産まればかりに姉になってしまったことだけだった」


「あんたいちいちムカつくわね……今日色々あったのよ、内緒だけど。全員で無事に戻ったら教えてあげてもいいわ」


「いや、興味ない」


「ちっ」


「が、まぁ聞いてやってもいい」


「どこが素直なのよ……」



*****


【登場人物紹介】

 カリム・ランクベリー

 フラム・ランクベリー


 妖精族の双子で、フェルピエラとは幼馴染の仲でもある。

 フェルピエラが、フェリトナ王女の長女だと気づいてからは適度な距離を保つようになったという経緯があるが、未だフラムは無礼な態度をとっている模様。


 フラムは魔法の扱いにおいて妖精族の中でも屈指の実力の持ち主であり、その一点のみにおいて一目置かれている。しかし、それ以外の、特に私生活の部分でマイナス評価をふんだんに受け、そのせいで魔法面での実力が霞んでいるのが実情だ。


 一方、カリムは、非の打ち所がないと評されており、魔法技術に関しては姉弟で甲乙つけがたくはあるものの、それ以外の部分はもっぱらカリムの方が優れているとの評価だ。ただ、たまに恥ずかしいミスをやらかしたりもする。肝心なところで噛んだりとか……。


『わたしのほうがお姉さんなんだからね』

『……哀れだ』

『あんた殴るわよ』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る