2-4 証明
「「「……」」」
その言葉に三人は一瞬固まる。
「ぷっ……あははははっ、何それ?嘘つくなら、もう少しマシなのなかったわけ?」
空中で足をバタつかせ、腹を抱えるフラムさん。
カリムさんも、「何を言うかと思えば」と呆れた表情を浮かべていた。
しかし、ハフマンさんだけは違った。
「して、何を具現化出来るんじゃ?」
「ハフマン卿?」
「え? 嘘でしょ? ハフ爺、まさか信じてるの?」
「人間のリオよ、何を具現化出来るのかと聞いておるんじゃが?」
「えっと、大体何でも……」
「ならばやって見せてくれるか? そうじゃな……イチゴなんてどうじゃ?」
「え?」
「出来ぬのか?」
「いえ、そういうわけじゃ……分かりました」
ハフマンさんがイチゴを知っていることに少し驚いた。
フェルピーが話したのだろうか。
「ねぇ、いちごって何?」
「知らん」
他の二人は知らないようだ。
僕は、描き慣れたイチゴを手早く描く。
ほぼ毎日描いていたためか、一つのイチゴを描くなどものの数分もかかりはしなかった。
そして僕は最後にサインを描いて、いとも簡単に具現化して見せた。
突如、宙に現れたイチゴがそのまま無造作に地面に落ちる様子に、三人の妖精は目を見開き、ゆっくりと互いの顔を見合わせる。
「まさかとは思っておったが……」
「なんだ! どういうことだ? どこから現れた?」
「な、なんかのトリックに決まってるって! 最初からどこかに隠し持ってたとか!」
三人の様子を見るに、やはりこの能力はかなり特別なもののようだ。
魔法があるくらいなので、それほど珍しいものでもないのかもしれないと思いかけていたところだったが、僕はもう一度認識を改め直す。
「何でも具現化出来るというのは本当なんじゃな?」
「えっと、見たことのあるものとか、イメージできるものであれば、大体は……」
「そうか、そういうことじゃったか……」
「ハフマン卿?」
一人何かを納得したかのようなハフマンさんは、ここら一体をぐるりと見渡した。
「このような
「この人間が自ら造り出したと?」
「それだけではない……おそらくじゃが……」
大樹へと目を向けるハフマンさん。
「まさか……」
「い、いや、さすがにそれはないでしょ……さすがにさ……」
「じゃが、そうでなければ説明ができん」
ハフマンさんの言わんとしていることを察した二人は、にわかに僕から距離をとる。
しかし、正直この場所のことについては僕もよく分かってはいない。
だから、何かを聞かれても上手く答えられる自信がなかったが、とうとう彼らからその真相について触れられることは無かった。
「で、でも、おかしいじゃん! それだけのことが出来るなら、なんでみすみすフェルピー……フェルピエラ様を連れ去られてるわけ?」
「その人間が自分で言っていただろ……準備する時間さえあればと……絵を描くのにはそれなりの時間がかかる」
カリムさんは頭を抱え、どこか諦めたようにフラムさんにそう答えていた。
「ハフマン卿、この人間は危険です。今のうちに手を下しておいた方がいいかと」
「わたしも賛成!なんかわたし恨み買ってそうだし」
「……!」
何でそんな話になるのかと一瞬焦る僕だったが、ハフマンさんの意見は違ったようだ。
「カリム、フラム、二人とも今すぐ出発の準備をするんじゃ」
「ハフマン卿、まさかとは思いますが、この人間と行けというのですか?」
「そうじゃ」
「信用できません、このような得体の知れぬ人間。なぜハフマン卿はこの人間を……」
「別にわしとて、このものを信用しているわけではない」
「では……」
「わしが信じておるのは、フェルピエラ様のその眼じゃ」
「……!」
「もしこの人間の話が本当であれば、フェルピエラ様はこの者を守って捕まったことになる。であれば、この者にはそれだけの価値があったということ」
「ですが、そもそもその話が嘘という可能性もあります! この者は人間ですぞ?」
「では、聞くがカリム。もし、お前とそしてフラム、二人でフェルピエラ様の救助に向かった場合、勝算はあるのか?」
「それは……この命に代えても必ず……」
「そんなことは聞いておらん。全員で無事に帰って来れるのかと聞いておるのじゃ」
「……難しいかと」
「ならば今はこのものの力を借りる他あるまい」
「ちょっと待ってよ! わたしは行かないわよ! 人間の住処に行くどころか、そもそも人間と一緒に行動だなんてありえないんですけど!」
「いや、寧ろ残らぬほうがよい。人間を逃したとあっては、儂らも無事ではすまん」
「だから、さっさとその人間を殺しておけばいいんだって! そうすれば解決でしょ?」
「ならぬ! フェルピエラ様を救うのが最優先じゃ」
「納得出来ない! どうしてあんな我がままフェルピーなんかのために命を賭けなくちゃならないわけ!」
空中で地団太を踏むフラムさん。
「聞け、カリム、フラムよ!いずれにせよ、フェルピエラ様がいなければ、我ら冠族、ひいては妖精族は終わりなのじゃ」
「一体何を言ってらっしゃるのですか?」
「全然意味が分かんない」
隣で聞き流していた僕も、深刻そうなハフマンさんの言葉に思わず反応してしまう。
「妖老会の中に、人間と通じておるものが何人かおる。先代の女王陛下フェルトナ様もおそらくその者たちによって
「「……!」」
「ここまで言えば分かるな?」
二人は何も答えなかったが、その表情からは腹をくくったかのような覚悟が見て取れた。
「ふむ、それでよい。話は聞いておったな、人間のリオよ。お主も今すぐ出発の準備をせよ」
「あ、はい!」
「しかし、まずはここを抜け出さねばなるまい……どうしたものか……」
「あの、僕に考えがあります。少し時間を下さい」
「分かった。しかしあまり時間はないぞ?」
僕はさっそくスケッチブックを開き、新しいページに筆を走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます