1-5 具現化能力
「はい、シルバ、今日のご飯だよ!」
湖畔に住み着くことになった巨大な竜。
彼にはシルバと名付けた。銀色だから。
特に名前を付けるつもりはなかったのだけど、フェルピー曰く、
「リオのことを主人と思っているみたい。名前つけてあげたら?」
とのことだったので、命名させてもらったわけだ。
僕は巨大な竜の前に、大きな豚の丸焼きを差し出す。
フェルピーが言うには、竜は基本的に何でも食べるのだとか。
それでもやっぱり好物は肉らしい。
「特に人間の肉」
とも言っていたけど、あれは冗談だと思いたい。
とは言え、さすがに餌のために生きた小動物を描くのは抵抗があったので、絵の段階から調理済みのものを描いて具現化することにしている。
「いいよ、食べて」
律儀に僕の許可を待つシルバ。
そんな風に躾けた覚えはないんだけど……。
竜が賢い生き物だというのは本当なようだ。
ココたちと違って僕が描き出したわけでもないのに、簡単な意思疎通が出来てしまうのだから。
この世界に来てからおよそ一ヶ月が経とうとしていた。
最初の何もなかった頃に比べるとだいぶ物も増え、生活感が出てきたように思う。
ココやシルバたちと遊んだり、フェルピーもほとんど毎日遊びに来てくれるから、孤独を感じることもなく、僕はここでの生活を満喫していた。
そんな充実した毎日が送れるのも、この絵を具現化させられる力のおかげだ。
この力が無ければ僕はとっくに野垂れ死んでいただろう。
だけど、この不思議な能力、全く不自由がないと言うわけではない。
一見万能に思える能力なのだか、所々制限や限界があり、度々その障害に悩まされることもあった。
つまり、具現化できない物や状況が存在するのだ。
僕は一度この能力について整理するため、今わかっていることを書き出してみる。
一、「RIO」というサインを書き終えたときに初めて描かれた絵が具現化する。
二、具現化するには「上手く描けた」という充足感が必要。
三、同じ絵の使い回しは出来ない。
四、既に目の前に存在するものの模写は具現化の対象外。
五、既に目の前に存在するものを脚色して描いた場合、それが反映される。
六、構造を把握出来ていないものや、複雑なものの具現化は出来ない。時計や家電とか……。
七、具現化した生物は、僕に従順になる……?
今分かっているのはこんなところだろうか。
「何してるの?」
「あ、フェルピー! 今日は遅かったね」
「追手を巻くのに苦労した」
「え? 追手……?」
フェルピーは僕の疑問はそっちのけで、僕の手元に目を向ける。
「なにそれ?」
「あー、これ? 今、絵の具現化についてちょっと整理してて」
「初めて見る文字。読めない。読んで」
あ、そっか、これ日本語だしね。
僕は書いたメモを一通り読み上げる。
「———みたいな感じなんだけど、まだ分からないことだらけで……」
「脚色?」
どうやらフェルピーは、脚色した対象への影響について興味があるようだった。
「あ、これね。ほら、前に話したシルバの傷を直した件。でも、あれ以来これ試してなくて……なんか怖いし……」
「私のこと大きく出来たりする?」
「え?」
僕はフェルピーの意外な言葉に驚く。
「やってみないと分からないけど……もしかして大きくなりたいの? あ、少し身長を伸ばしたいとか?」
「リオと同じくらいの大きさ」
「……」
ひとまずこの話は、もう少し詳しいことが分かってからということで落ち着いた。
フェルピーが本気で言っているのかも分からないし……。
フェルピーもそれで納得してくれたようだ。
「イチゴは?」
「うん、出来てるよ!」
僕は前もって描いておいたイチゴの絵にサインを描き足し具現化させる。
いつもと変わらない日々。
きっとこんな平穏がこれからも続くのだろう。
「ここもリオが創ったの?」
そう言ってフェルピーは大樹の方へと目を向けた。
「うん、そうなるのかな……でも自分でもよく分かってなくて……」
フェルピーの話によると、ここは元々ただの荒れ地だったのだとか。
大樹や湖はおろか草すら生えておらず、生き物が寄り付くような場所ではなかったようだ。
「良いところ」
僕は自分の絵が褒められたような気がして、すごく嬉しかった。
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